単一燃料に頼らない海運戦略 自然と人権まで見据える転換
専門家の視点
バイオ燃料を燃焼時排出だけで評価しないという論点が、海運脱炭素の争点として浮上しています。記事が示す実体は、インドネシアでの土地転換に伴う約69万5315ヘクタールの潜在的森林喪失推計、最大2000万ヘクタール利用時に約70億〜80億トンのCO2排出という試算、廃食用油回収業者の原産地確認率9%という認証の執行ギャップです。ここで構造的なズレは、目的である脱炭素に対し、手段である燃料転換の実行レイヤーが供給地の土地利用・人権・認証監査に依存している点にあります。燃焼時排出という測定境界の外側で排出と負荷が生じ、便益を相殺しうるという指摘は、比較基準の欠落が移行戦略の弱点になることを示します。日本郵船の二元燃料船と効率改善の二本柱は、単一燃料依存を避ける実務的な答えです。次の観測点は、認証監査の実効性と荷主のスコープ3算定が、供給地の土地利用変化をどこまで織り込むかです。
バイオ燃料の利用拡大が進む中、森林や生態系、人権までを含めた海運の脱炭素と自然保全の両立が必要だ。代替燃料を炭素排出だけで評価せず、生産地の自然や暮らしまで含めて持続可能性を問い直す。海運と物流の脱炭素を進めながら自然や地域社会を守るため、単一燃料に依存しない移行戦略を議論した。 輸送の脱炭素は、燃料を化石燃料からバイオ燃料など環境に優しいとされる代替燃料に置き換えるだけでは終わらない。エネルギー安全保障、自然資本、人権まで含め、サプライチェーン全体で考える必要がある。燃料消費量の大きな海運にとっては、燃料転換は特に重要な課題になる。 クライメートワークス財団の沖恵梨氏は「日本は国際貿易の99%以上を海上輸送に頼る海運国家だ。エネルギー安全保障と気候変動対策を両立し、強靭なサプライチェーンを築くことが重要だ」と話した。 輸送効率化や電化、次世代燃料への投資と同時に、「限りある土地や自然資本を有効に活用し、人や生態系に配慮しながら、適材適所のエネルギー源を模索する必要がある」という。 議論の出発点になったのが、燃焼時の排出量だけでは見えてこないバイオ燃料の自然に対する負荷だ。モデレーターの藤田香氏は、バイオ燃料を生産地から捉え、自然や地域社会への影響を含めて考えるようパネリストに議論を促した。 アユ・クスマ・プルティウィ氏は「気候目標の達成には、CO2の排出だけでなく、サプライチェーン全体、関係する生態系、影響を受ける地域社会まで見る必要がある」と訴えた。インドネシアはバイオ燃料の主要生産国で、軽油のバイオディーゼル混合比率を引き上げたが、化石燃料から低炭素化に使われるバイオ燃料など代替燃料に置き換えるだけではない。 同国の南パプア州では食料・エネルギー開発による潜在的な森林喪失を約69万5315ヘクタールと推計する。さらに最大2000万ヘクタールの森林を食料・エネルギー生産に利用した場合、約70億〜80億トンのCO2排出につながり、同国エネルギー部門の2018〜22年分に相当するとした。「燃焼時の排出をバイオ燃料で減らしても、土地転換による排出が長年続けば、その気候便益を相殺し、場合によっては上回りかねない」とプルティウィ氏はいう。 森林と土地は先住民や地域社会にとって、生計だけでなく文化や統治、世代を超えた生活の基盤でもある。エネルギー転換では、誰が利益を受け、誰が負担するのかまで考える必要があると訴えた。 トランスポート・アンド・エンバイロメント(T&E)のジュード・リー氏は「バイオ燃料は本当に持続可能な解決策なのか」と疑問を投げかけ、石油依存から別の燃料依存へ移るリスクを指摘した。バイオ燃料は世界の運輸燃料需要の4%を占める一方、生産量の90%超が10カ国に集中する。土地利用効率にも課題がある。同じ土地を太陽光発電に使えば、作物由来燃料を利用する場合に比べ、90倍多くの電気自動車(EV)にエネルギーを供給できるとの試算を示した。 さらに、食料作物の燃料転用が別の場所で農地開発を誘発する間接的土地利用変化(ILUC)がある。T&Eは、ILUCを含めると世界のバイオ燃料は代替対象の化石燃料より約16%多く温室効果ガスを排出すると試算する。 認証にも課題がある。国際持続可能性カーボン認証(ISCC)を取得した中国、マレーシア、インドネシアの廃食用油回収業者で、現地監査によって原産地を確認できた割合は9%だけだった。リー氏は短距離海運やフェリーでは電動化を優先し、希少な廃棄物・残渣(ざんさ)由来燃料は航空など代替手段が乏しい分野に振り向けるべきとした。 日本郵船の藤原愛之氏は、国際海運が世界貿易の約9割を担いながら、絶対量として大きな温室効果ガスを排出している立場を説明した。 海運会社が船舶の運航で直接排出する温室効果ガスはスコープ1に当たる。一方、荷主から見れば、輸送に伴う排出はサプライチェーン上の間接排出であるスコープ3だ。海運の排出削減は、荷主企業の排出削減にも直結する。「代替燃料が出てくるまで何もしないのではなく、足元からできることをやっていく」と藤原氏は話した。 同社の脱炭素戦略は二本柱だ。まず船体抵抗の低減やエンジンの最適化などでエネルギー効率を高め、同時に代替燃料への投資を進める。LNG(液化天然ガス)、メタノール、アンモニアなどの代替燃料と燃料油を切り替えて使う二元燃料船も増やしている。燃料市場や規制が変化しても、複数の燃料を選べる船なら柔軟に対応できる。特定の燃料や供給地への依存を抑え、燃料調達のレジリエンスを高める狙いだ。「特定燃料に依存しないことが基本的な考え方だ」と藤原氏はいう。 イケア・ジャパンの岡本有加氏は「輸送を効率化し、トラックの台数や回数を減らす発想から、家具を分解して平らな薄型の箱に効率よく梱
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