【環境】ネイチャーSBT承認企業に学ぶ4つの共通項 〜測定可能な圧力と段階的アプローチ〜
専門家の視点
ネイチャーSBT承認企業5社に共通するのは、目標設定の前に「場所の特定」を完了させている点です。淡水、土地、海洋という領域ごとに地域の生態系状態を評価し、優先順位を付けてから数値目標を立てるという段階的プロセスが、実際の進捗企業と途中段階の9社との差として現れています。ただし、承認企業5社の業種を見ると、繊維、飲料、医薬、素材、不動産と分散しており、特定の業種で先行しているわけではありません。むしろ、サプライチェーンが特定地域に集中し、淡水や土地への圧力が測定しやすい事業構造が共通項と考えられます。ここで浮上する構造的論点は、評価ステップの「誰が実行するか」です。SBTNの枠組みは企業に場所特定を要求しますが、流域レベルや生態系単位のデータ収集と分析を担う専門人材は、気候分野の排出量算定と比べて著しく不足しています。また、自然の状態は時間とともに変化するため、一度承認を得ても目標の更新サイクルが不可逆的なコストを企業に課します。隠れた前提を問い直すなら、「自然への圧力削減目標は、企業単独で達成可能である」という考え方です。
企業の自然関連対応が、方針策定や情報開示から、場所と数値を特定した目標設定へと移行し始めている。その中核的な枠組みの一つが、科学的根拠に基づく目標ネットワーク(SBTN)が開発する自然(ネイチャー)分野の目標設定手法「SBTs for Nature(ネイチャーSBT)」だ。 ネイチャーSBTは、企業活動が自然に与える圧力を、地域の生態系の状態や環境上の閾値を踏まえて削減するための目標設定手法である。気候変動分野のSBTでは、世界共通の気温上昇目標との整合性を基に温室効果ガス排出削減量を設定する。一方、自然の状態は流域、生態系、原材料生産地毎に異なるため、企業には「どの場所で、自然に与えるどの圧力を、いつまでに、どれだけ減らすか」を特定することが求められる。 【参考】【環境】SBTN、自然資本の科学的根拠に基づく目標設定ルールを策定 〜TNFDと両輪の存在〜(2023年4月16日) 現時点では、ネイチャーSBTを実際に設定し、第三者検証を経て公開している企業は5社と極めて少ない。本稿では、この5社を中心に、検証済みの進捗を開示した14社の構成や初期パイロットの結果も踏まえ、検証・公開まで到達した企業の共通項を分析する。 SBTNのプロセスは、「分析・評価(Assess)」「理解・優先順位づけ(Interpret Prioritize)」「計測・設定・開示(Measure, Set Disclose)」の3ステップでネイチャーSBTの設定と開示を行い、「行動(Act)」「追跡(Track)」と併せた計5つのステップを通じて、目標の設定、実行、進捗確認及び継続的改善を進める。 目標設定に関しては、例えば分析・評価では、自社の直接操業と上流バリューチェーンを対象に、土地利用、水利用、水質汚染、天然資源利用等の自然への圧力を評価。理解・優先順位づけでは、自然への影響の大きさと、地域の自然の状態を組み合わせ、目標設定や行動を優先すべき場所と事業活動を絞り込む。計測・設定・開示では、優先地域について、科学的根拠や地域の自然状態を踏まえ、必要な圧力削減、自然生態系転換の回避、地域協働等を、期限を伴う目標に落とし込む。 目標設定手法が整備されている自然領域は、「淡水」「土地」「海洋」の3つ。淡水では、流域毎の水使用量と水質汚染に関する目標を設定する。土地では、自然生態系の転換ゼロ、農地フットプリント削減、ランドスケープ・エンゲージメントの3種類の目標手法があり、企業のマテリアリティと業種適格性に応じ、必要な目標を設定する。海洋では、天然漁業及び養殖を対象に、過剰利用の回避・削減、構造的生息地の保護、絶滅危惧種等へのリスク削減の3種類の目標手法が用意されている。 SBTNが掲げるネイチャーに関連するテーマは本来、「淡水」「土地」「海洋」に、「生物多様性」「気候変動」を加えた5つだが、生物多様性については、独立した単一の目標を設定するのではなく、種の絶滅リスクや生態系の健全性等を考慮し、優先地域を選定する等の形で、各目標に横断的に組み込まれている。また、気候目標については、SBTN独自の目標設定手法ではなく、温室効果ガス排出がマテリアルな場合に、科学的根拠に基づく削減目標イニシアチブ(SBTi)を通じて設定することを求めている。 また、ネイチャーSBTについて「検証を受けた」「科学的根拠に基づく自然目標を設定した」と対外的に主張するには、SBTNの独立検証機関を担うAccountability Acceleratorによる検証を受け、定められた範囲と表現で公開することが求められる。主張できる内容は、検証を受けた組織境界、バリューチェーン、自然領域、対象場所に限定されることにも留意しなければならない。 SBTNは、目標承認企業だけでなく、目標設定に向けた途中段階の企業もデータベース「ターゲット・トラッカー」で公開している。2026年7月31日時点では、ステップ1の分析・評価及びステップ2の理解・優先順位付けまでの検証済み成果を公開している企業が9社、ステップ3まで進み承認済み目標を公開している企業が5社。非公開までも含めると目標承認を受けた企業は11社あり、目標数の単位では50件超が承認されている。 承認済み目標を公開したのは、ケリング、グラクソ・スミスクライン(GSK)、ホルシム、H M、ウニベイル・ロダムコ・ウェストフィールド(URW)。ステップ1と2の検証済み成果を公開したのは、キリンホールディングス、ノボノルディスク、エルメス・インターナショナル、ソデクソ、Orkla Foods傘下のスウェーデン事業会社Orkla Foods Sverige AB、Séché Environnement、Arla Foods、KLS PurePrint、Li
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一次ソース
- https://sciencebasedtargetsnetwork.org/companies/take-action/
- https://sciencebasedtargetsnetwork.org/company/target-tracker/
- https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2026/0731_02.pdf
- https://tnfd.global/engage/tnfd-adopters/tnfd-adopters-list/
- https://sciencebasedtargetsnetwork.org/case-studies/sbtn-pilot-kering/