[時流を問う]満行泰河氏/原子力推進船、学会が舵
海運業界の2050年カーボンニュートラルに向け、CO2排出を抑えた低炭素船の開発が進む中、造船・海洋工学の学会が原子力推進船の開発に舵を切る動きを報じている。
専門家の視点
原子力推進船は「究極の低炭素船」という物語と、技術的実証の乏しさという実体のあいだに明確なズレがあります。日本は「むつ」の失敗という負の記憶を持ちながら、学会主導で再び原子力船の議論を始めました。ここで見逃せないのは、この委員会が「プロジェクト研究委員会」という位置づけで、実船建造ではなく調査・検討が目的である点です。つまり、現時点では物語が先行し、実体はまだ机上の検討段階にあります。加えて、原子力船の課題は技術だけではありません。寄港国の受入態勢、国際海事機関の規則、核セキュリティなど、社会受容性を含む制度的な非対称性が存在します。技術開発が進んでも、港湾や保険、人材育成という実行レイヤーが追いつかなければ、実用化は遠のく構造です。隠れた前提は、原子力が「ゼロエミッション」とみなされていることですが、ライフサイクル全体で見れば燃料製造や廃棄物処理の排出を無視できません。時間軸で見れば、この委員会の成果が具体化するのは早くても2030年代以降であり、2050年目標に間に合わせるには、社会実験を含めた並行した取組が必要です。