サステナ経営塾2026: [統合思考/統合レポーティングとは何か~持続可能な価値創造に向けて~]室井孝之・オルタナ総研フェロー 講義
専門家の視点
統合思考が企業の内部改革を促す実体と、社会への「宣言書」としての物語の間には、常にズレが生じる構造があります。SSBJ基準対応やコーポレートガバナンス・コード改訂といった制度は実体として迫っていますが、肝心の実行レイヤーは社外取締役や中堅人材に過重な負担としてのしかかっています。ここで問うべきは、非財務情報の開示が形式への対応に堕した場合、企業価値の物語は実体を失うという点です。16の非財務情報の体系的開示は、中期経営計画の数値目標に落とし込まれて初めて経営改革に効く時間軸を持ちます。ソニーや富士フイルムの事例が示すのは、開示そのものではなく、内部の対話をどれだけ喧々諤々と重ねたかという実行の質です。つまり、この講義の要旨は物語先走りの構造を内包しています。次の観測点は、2027年3月期の開示が形式的な数値の羅列に終わるのか、目標未達の理由と改善策を誠実に示す文化を伴うのか、という合弁会社や各社の統合報告書の実物です。統合思考は経営トップのリーダーシップだけでは制度化されず、一人ひとりのパーパスにまで翻訳されなければ、結局は実体なき物語に留まります。
オルタナは2026年6月17日、「サステナ経営塾」22期上期第2回を開催した。第3講では、オルタナ総研フェローの室井孝之が「統合思考/統合レポーティングとは何か~持続可能な価値創造に向けて~」と題して講義を行った。講義の要旨をまとめた。 ・統合思考とは、財務資本、人的資本、自然資本など、組織を支えるさまざまな資本との関係を能動的に考えることである。統合報告書は、企業が長期的にどのような価値を創造していくのかを社会に示す「宣言書」である。 ・2027年3月期からのSSBJ基準への対応や、2026年7月のコーポレートガバナンス・コード改訂など、企業を取り巻く制度は大きく変化している。重要なのは制度対応を形式的な開示に終わらせず、経営改革につなげることである。 ・社外取締役の責任は今後さらに重くなる。不祥事が起きた際に「社外だから責任はない」という時代ではない。形式だけではなく、実効性のあるガバナンスが求められている。 ・男女間賃金差異の開示が求められる本質的な理由は、経営判断を担う組織に女性が圧倒的に少ないという構造的課題があるためである。数値だけを見るのではなく、その背景を理解することが重要である。 ・心理的安全性とは、「仲良しクラブ」や「ぬるま湯」を意味するものではない。高い目標の達成に向けて、建設的に意見をぶつけ合える環境こそが、本来の心理的安全性である。 ・統合報告書では、「16の非財務情報」を体系的に開示することが重要である。特に中期経営計画では、具体的な数値目標を明示することで、意思決定の透明性が高まり、組織全体で方向性を共有することができる。 ・ソニーのパーパス経営、富士フイルムが約20年かけて実現した事業構造転換、レゾナックが経営陣も交えて「喧々諤々」の議論を重ねながら統合報告書を作成している事例は、財務情報と非財務情報を結び付けた価値創造ストーリーを考える上で示唆に富んでいる。 ・情報開示の目的は、将来の企業価値をステークホルダーに正しく理解・評価してもらうことである。そのためには、目標未達であっても、その理由や改善策を誠実に開示する姿勢が企業への信頼につながる。 ・経営トップのリーダーシップは重要である。しかし、それだけでは十分ではない。企業を支える一人ひとりが自らのパーパスを持ち、社会課題の解決を通じて企業価値の向上に貢献するという意識を持って仕事に取り組むことが重要である。 ・「価値創造プロセス」は、単なる説明ではなく、投資家がワクワクするような企業が永続的に価値を生み出す物語を紡ぐことが、要諦である。 株式会社オルタナは2011年にサステナビリティ・CSRを学ぶ「CSR部員塾」を発足しました。その後、「サステナビリティ部員塾」に改称し、2023年度から「サステナ経営塾」として新たにスタートします。2011年以来、これまで延べ約700社900人の方に受講していただきました。上期はサステナビリティ/ESG初任者向けに基本的な知識を伝授します。下期はサステナビリティ/ESG実務担当者として必要な実践的知識やノウハウを伝授します。サステナ経営塾公式HPはこちら
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