制度・政策

【日本】農水省、食料・農林水産業の国際標準戦略策定。スマート農業、GHG削減、栄養評価等

2026-07-30
農水省が食料・農林水産業の国際標準戦略を策定し、高付加価値化や温室効果ガス削減・吸収ビジネス等を重点領域に設定した。

専門家の視点

農水省の国際標準戦略は、実体としての輸出実績や技術力という裏付けがある一方、対象範囲がフードサプライチェーン全体、バイオ素材、カーボンクレジット方法論にまで及び、その全てで国際標準を主導するという物語は壮大です。ここには物語先走りの構造が潜んでいます。 特に、「食事全体での栄養バランス」という概念の国際提唱は、具体的手法が未定であり、実体が追いついていない典型です。また、カーボンクレジット方法論の開発は、アジア各国の事情に応じた個別対応が必要で、標準化によるスケールメリットが出るまでに長い時間軸が想定されます。 制度と実行の非対称性も見逃せません。産官学金の連携やPDCAサイクルの構築は示されましたが、実際に規格策定の伴走支援をする人材が、国内の規格担当部署に十分いるのかが不明です。標準化は技術以上に交渉力と人的ネットワークが効く分野で、ここが欠落すると戦略は絵に描いた餅になります。 隠れた前提は「標準化が市場創出につながる」という因果です。しかし、標準化は競争を固定化する側面もあり、日本が主導した規格が逆に海外勢の参入障壁を下げる可能性も視野に入れるべきです。

農林水産省は7月24日、「食料・農林水産業の国際標準戦略」を策定した。「高品質・高付加価値の農林水産物・食品」「持続可能な農林水産業・食品産業」「温室効果ガス削減・吸収ビジネス」の3領域を重点領域に設定。国際標準を、社会課題の解決と市場創出を実現するための戦略的なツールとして活用する。 同戦略は、内閣官房知的財産戦略本部が2025年6月に決定した「新たな国際標準戦略」を踏まえたもの。同戦略では17の重点領域のうち、特に緊急性が高い8つを「戦略領域」に位置付けており、「食料・農林水産業」もその一つに選定された。今回の対象には、農業、林業、水産業等の一次産品の生産だけでなく、食品の加工・製造、流通、消費までのフードサプライチェーン全体と、関連技術・サービスを含めた。 国際標準については、国際標準化機構(ISO)や国際食品規格委員会(Codex)等が策定する国際規格に限定せず、地域規格、国家規格、民間団体規格、デファクト標準等も対象とする。GHGプロトコルやJ-クレジット等の算定方法・認証スキームについても、金融市場やグローバルサプライチェーンの取引条件として機能していることから、戦略の対象に含めた。標準化を行わず、知的財産として秘匿する選択肢も含め、オープンとクローズを組み合わせる方針。 まず高品質・高付加価値の農林水産物・食品では、海外市場を視野に入れた農林水産物・食品と、高機能バイオ素材を対象に設定。農林水産物・食品では、日本産品の模倣品対策やブランド価値向上に向け、品質、製法、名称等に関する規格や適合性評価を整備する。災害食等の新たな概念の国際標準化や、日本産米を用いたおにぎり等、農産物の川下用途を含む規格化も検討する。ISO等の国際規格と、JAS等の国内規格や団体規格を、目的に応じて使い分ける。 高機能バイオ素材では、植物や昆虫等の生物機能を活用して生産する医薬品原料や高機能素材について、品質、安全性、成分定量等の評価方法の国際標準化を主導。既存の試験方法では評価が難しい素材について、製品化や許認可取得に向けた障壁を軽減するとともに、製品開発の予見可能性を高める。農産物を医薬品や産業資材の原材料として活用する新たなバイオ産業の創出に繋げる。 持続可能な農林水産業・食品産業では、スマート農業、フードテック・フードチェーン、持続可能な水産養殖、食の栄養評価等が対象。植物工場、陸上養殖、食品機械、新規食品では、日本の技術やサービスの性能を客観的に示す評価規格や、模倣品との差別化に向けた品質規格を検討する。 スマート農業では、水田作に対応した技術を対象に、営農支援システム間や、営農支援システムと農業機械との間でデータを連携するための交換仕様の国際標準化を主導。農業機械だけでなく、営農管理システムを含むスマート農業を一体で提供できる環境をASEAN地域等で整備し、市場拡大を目指す。 食の栄養評価では、製品単体の栄養成分だけでなく、多様な食材を組み合わせる日本の食文化を踏まえ、「食事全体での栄養バランス」を評価する概念を国際的に提唱する。産官学で日本の食と健康に関するエビデンスや食品企業の取り組みを整理し、国際機関、各国政府、機関投資家等への働きかけを行う。具体的な標準化手法については今後も検討する。 温室効果ガス削減・吸収ビジネスでは、水田の中干し期間延長、農地へのバイオ炭施用、アミノ酸バランス改善飼料等、農業・森林分野の削減・吸収技術について、カーボンクレジット方法論を開発。ISO等の国際規格や各国のグリーンタクソノミー、カーボンクレジット制度への反映を目指す。農研機構によるアジア生産性機構(APO)加盟国への普及活動や、アジア各国の環境や政府機関の要望に応じた方法論開発も進める。温室効果ガス排出・削減量の測定・報告・検証(MRV)に必要なデータの取得や転送には、スマート農業技術を活用することも有効とした。 推進体制では、産官学に金融機関や投資家を加えた「産官学金」の連携を強化する。政府や公的専門機関は、規格策定の伴走支援や資金支援を提供。大学・研究機関は研究開発と標準化を一体的に推進する。金融機関や投資家は、国際標準活動を経営戦略の一部として評価し、コーポレートファイナンスやプロジェクトファイナンスを通じて産業界の取り組みを後押しする。 また、農研機構(NARO)、農林水産消費安全技術センター(FAMIC)、日本規格協会(JSA)等を標準化支援エコシステムの中核に位置付ける。農林水産省内でも、重点領域毎の目標とアクションプランを策定し、進捗を定期的に評価・見直すPDCAサイクルを構築。ISOやCodexでの議長、幹事国、プロジェクトリーダー等の役職獲得も目指し、日本の国際的なルール形成力を高める。 【参照ページ】「食料・農林水産

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