「欲しい人がいなかった技術」脱炭素コンクリ、大阪・御堂筋のビルに導入 大成建設
専門家の視点
技術の成熟と市場の受け入れの間に、約10年のタイムラグがあったことがこの記事の核心です。開発当初は「欲しい人がいなかった」技術が、2020年のカーボンニュートラル宣言という制度的な後押しで一気に表舞台へ出ました。ここでは実体(技術の完成度)と物語(脱炭素という社会目標)の整合が取れた瞬間であり、物語が実体を引き上げた好例といえます。 ただし、現在の構造を見ると、期待先行の側面も見えてきます。累計2万5000立方メートルという実績は、国内の生コンクリート出荷量と比べれば極めて限定的です。100件弱の採用はPR効果を狙った象徴的な案件が中心であり、量産効果によるコスト低下が実現するほどの規模にはまだ達していません。ここに「環境性能を付与した分のコスト高」という課題が現実として立ちはだかります。 さらに隠れた前提への問い直しとして、石炭火力の緊急活用で機運が失速しているという指摘がありますが、産業界の中長期判断は案外安定しています。問題は、この技術が「脱炭素のシンボル」から「標準的な選択肢」になれるかどうかです。
大成建設は31日、大阪市中央区本町の御堂筋沿いに自社開発の脱炭素型「T-eConcrete(ティー・イーコンクリート)」を活用した複合ビルを完成させた。かつて社内では必ずしも重視されなかった技術だが、脱炭素の潮流の中、頭角を現した。大成建設では大都市の大通りで活用することでPRし、自前の環境技術の売り込みを進める。 施設名は「ユイノート本町」。自社ビルと、隣接する学校法人「相愛学園」の施設を一体的に建て替えた。地上14階建てのホテル棟と、学校とオフィスの入る地上26階建ての高層棟の2棟で構成されている。 一般的なコンクリートは主成分のセメントの製造過程で大量の二酸化炭素(CO2)を排出するが、ティー・イーコンクリートは別の結合成分を使ってセメントの利用を抑えたり、避けたりしている。今回の建物には、工場などから排出されたCO2を含んだ炭酸カルシウムをコンクリートの骨材などに使って封じ込め、排出量を実質的にマイナスにした「カーボンリサイクル」タイプを活用している。 今後、ビルの修繕などの過程でも脱炭素化を進め、部材調達から解体に至るまでの「ライフサイクル」全体で、通常のビルより40%のCO2排出削減を目指す。 ティー・イーコンクリートは2013年の時点で開発されていた技術だ。ただ、担当者は「当時社内では重要視されず、世の中で『欲しい』という人もいなかった」と振り返る。脱炭素の機運はなく、会社からは「本格的な導入は30年ごろ」と伝えられていた。 潮目が変わったのは20年、当時の菅義偉首相が打ち出した「2050年カーボンニュートラル」宣言だ。50年にCO2排出量実質ゼロを目指すもので、官民を挙げた脱炭素運動が起きた。 翌21年にカーボンリサイクルタイプを発表すると、外部から問い合わせが100件ほど殺到。「会社で『要らない』と言っていた人たちから『30年とか言ってないで、すぐにやれ』と指示が出た」(担当者)といい、製品開発が進んだ。 以降、ティー・イーコンクリートは下水道施設のトンネルの構造物など公共工事でも採用を伸ばし、25年度までに累計約2万5000立方メートル、100件弱の建築・土木工事で使用された。 ただ円安に伴う資材高などで建設費が高騰していく中、環境配慮性能を付与した分のコスト高は課題だ。今後、大量受注やさらなる技術開発による価格低下は必須となる。ゼネコン大手では鹿島の「CO2-SUICOM(スイコム)」や、清水建設の「DACコート」など各社も脱炭素コンクリート技術を高めており、競合は多い。 また、中東情勢をめぐっては、エネルギー安定確保のため石炭火力が緊急的に積極活用されるなど、国内で「カーボンニュートラル」の機運は、打ち出された時期より失速している。ただ産業界では中長期的には脱炭素化は避けられないとの見方は大きく、大成建設では需要拡大を見越して拡販を進める考えだ。(織田淳嗣) Google検索で「産経ニュース」を優先表示。ワンクリックで簡単登録
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