【環境】建築物エンボディドカーボンの動向 ~各国政策とグリーンビルディング認証への組入れ~
専門家の視点
建築物の脱炭素政策が、運用時のエネルギー消費から建材製造・施工・廃棄に至るエンボディドカーボンへと重心を移し始めています。この構造の核心は、EUのEPBD改正と改正CPRという二つの制度が、建物全体の排出量算定と個別建材の環境データ供給を連動させる仕組みを作り出した点です。実体として、EUでは2028年から大規模新築物件へのライフサイクルGWP算定義務化、2030年から全物件への上限値適用が動き出します。日本でも2026年7月に建築物省エネ法改正法が成立しましたが、上限値設定の具体的なスケジュールや執行体制はまだ明確ではありません。 ここでの物語は「オペレーショナルカーボン削減だけでは不十分」という流れであり、その論理は正しいです。しかし、アップフロントカーボンの削減が建設時の大規模な建材調達変更を伴うため、実現には鉄鋼・セメント産業の生産工程転換と、設計者・施工者の判断基準変更が必要です。物語は明確ですが、実行レイヤーの「誰がどの程度の速度で動くのか」という実体が制度の陰に隠れています。
建築物の脱炭素を巡る政策と市場評価の重心が、建物を使用する際のエネルギー消費から、建物を建設する前後に発生するエンボディドカーボンへと広がっている。 これまで建築分野の気候変動対策では、断熱性能、高効率な空調・給湯設備、再生可能エネルギー等、建物の運用時に発生する温室効果ガス排出量の削減が中心だった。これらは引き続き重要だが、直近で制度化が急速に進んでいるのは、鉄鋼、セメント、アルミニウム、ガラス、断熱材等の製造、建材輸送、施工、補修、交換、解体、廃棄に伴う排出量だ。 EUでは、2024年改正の建物エネルギー性能指令(EPBD)が、新築建築物のライフサイクル全体の地球温暖化係数(GWP)の算定と開示を段階的に義務化。加盟国に上限値導入のロードマップも求めた。グリーンビルディング認証では、LEED v5がエンボディドカーボン算定を認証の前提条件とし、英国では都市計画と専門職標準、米国では公共調達と州建築基準が低炭素建材の市場を形成している。 日本でも2026年7月、建築物のライフサイクルカーボン評価制度を創設する建築物省エネ法改正法が成立した。エンボディドカーボンは、任意の環境配慮項目から、建築規制、都市計画、認証、企業目標、公共調達、建材選定の条件へと変わり始めている。 建築物の温室効果ガス排出量は、大きくオペレーショナルカーボンとエンボディドカーボンに分けられる。両者を合わせた、建築物のライフサイクル全体の排出量がホールライフカーボンとなる。 (出所)SBTi「Buildings Sector Science-Based Targets Explanatory Document Version 1.2」 オペレーショナルカーボンは、建物の使用時に、空調、照明、給湯、換気、エレベーター等で消費されるエネルギーに伴う排出量を指す。断熱性能の向上、高効率設備への更新、再生可能エネルギーの導入、エネルギーマネジメント等が主な削減手段となる。 エンボディドカーボンは、建材の原料採取、製造、輸送、施工、補修、交換、解体、廃棄等に伴う排出量。鉄鋼やセメント等の製造時排出量だけでなく、施工現場の燃料使用、設備交換、廃棄物処理等も対象となり得る。低炭素建材、再生材、木材、既存躯体の活用、建材リユース、長寿命設計等が削減策となる。 このうち、以下の工程での排出量は、一般にアップフロントカーボンと呼ばれる。 アップフロントカーボンは、建物が完成するまでに既に発生しており、完成後の省エネでは削減できない。 建物の省エネ性能が高まり、電力の脱炭素化が進むほど、ライフサイクル排出量に占める運用時排出量の割合は低下する。一方、建材製造や施工に伴う排出量は、建物の構造、資材数量、調達先、施工方法を変えなければ減少しない。2030年までの累積排出量を抑える上でも、建設時に集中するアップフロントカーボンの削減が重要となる。 改正建物エネルギー性能指令(EPBD)は、新築建築物のライフサイクルGWPについて、算定・開示から上限値の導入へ段階的に移行する工程を定めた。まず加盟国は、2027年1月1日までに、新築建築物のライフサイクルGWP上限値と削減目標を導入するためのロードマップを欧州委員会へ提出する。上限値はEU全域で一律に設定するのではなく、EU共通の算定枠組を用いながら、加盟国が建物用途や国内事情に応じて設定する。 その後、2028年1月1日から有用床面積1,000m2超の新築建築物について、ライフサイクルGWPの算定とエネルギー性能証明書(EPC)での開示を義務化。2030年1月1日からは対象を全ての新築建築物へ拡大し、加盟国が設定した上限値の適用も始まる。 算定方法については、欧州委員会が2025年12月に委任規則(EU)2026/52を採択し、2026年5月に発効した。建材の製造、輸送、施工、運用エネルギー、修繕・交換、解体、廃棄等を対象とし、製品固有データを利用できない場合には、一般データやデフォルト値の使用も認める。 一方、建物LCAに必要な製品データを整備するのが、改正建設製品規則(CPR)だ。改正CPRは、建設製品の性能申告に、気候変動、資源利用、水使用、廃棄物等の環境性能を段階的に組み込み、建設製品向けデジタル製品パスポート(DPP)の制度基盤も設けた。具体的な義務は、全製品へ一斉に適用されるのではなく、製品群毎の調和技術仕様等の整備に応じて導入される。 【参考】【EU】改正建設製品規則、発効。建材の環境報告義務化やDPP適応。公共調達にも影響(2025年1月11日) EPBDが建物全体の排出量の算定・開示と上限値導入の枠組を定め、CPRが個々の建材の環境データを供給する構造となる。設計者は、価格、強度、耐火性、断熱性、工期に加え、建材のG
本文は配信元の記事から取得した抜粋です。
一次ソース
- https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2024/1275/oj/eng
- https://energy.ec.europa.eu/topics/energy-efficiency/energy-performance-buildings/energy-performance-buildings-directive/global-warming-potential-buildings_en
- https://eur-lex.europa.eu/eli/reg_del/2026/52/oj/eng
- https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2024/3110/oj/eng
- https://www.bygningsreglementet.dk/tekniske-bestemmelser/11/krav/297_298/