蓄電池産業の新戦略を読み解く 高付加価値化で売上高3倍に
経済産業省が改訂した「蓄電池・電源産業戦略」で、日本の競争軸を生産量から安全性や長寿命などの用途別付加価値へ転換し、売上高3倍を目指す方針を示した。
専門家の視点
経産省の戦略改訂は、日本の蓄電池産業が「量」から「高付加価値」へと軸足を移す明確な「物語」を提示しています。しかし、その実体として、安全性や信頼性といった強みは元々日本企業の領域であり、それらが世界市場で価格競争に屈せずに収益化できていない現状があります。この「物語先走り」の構造は、2022年の戦略策定から改訂までに外部環境が大きく変化したという説明にも表れています。具体的には、中国勢の低価格攻勢や欧州の地産地消志向といった物理的な市場制約が、日本企業が得意とする高付加価値戦略の需要そのものを縮小させている可能性があります。つまり、物語(戦略転換)が示す方向性は正しくとも、実体(市場の価格感度や需要構造)がそれを許さないギャップが拡大しているのです。時間軸で見れば、瞬発力や長寿命を評価する市場が育つには数年を要し、それまでの間、既存の量産型市場での競争力維持は不可避です。両立しにくい二つの事実——「高付加価値への政策転換」と「今すぐ必要な収益の確保」——が並存しており、実行レイヤーである企業には、両面作戦を同時に進める経営判断が常に求められます。