高品位スクラップを確保せよ 製鉄業界が挑む極限リサイクル
専門家の視点
鉄のリサイクル率が既に9割に達しているという事実は、業界内では常識でも、一般の認識とズレがあります。この「実体(高リサイクル率)が翻訳されていない」状態が、今回の構造の一端です。しかし、より深刻なのは「物語先走り」の構図です。政府と業界は、電炉シフトによる脱炭素と高級鋼生産の両立を掲げますが、その鍵となる高品位スクラップの定義すら曖昧で、供給元からの推定に頼っているのが実態です。年間200万トンの高品位化処理能力目標はありますが、それを誰が、どのような技術とコストで実現するのか、実行レイヤーが具体化されていません。隠れた前提は「電炉で高級鋼を作れば全て解決する」という発想です。実際には、自動車用の深絞り鋼板など、電炉では品質の壁が高い製品群が存在します。この前提が崩れれば、電炉シフトの物語は量から質へと重心を移す必要が生じます。現時点の構造は、実体(制度と回収網の成熟)を背景に、物語(電炉シフトとグリーン鉄)が先行し、期待(市場の反応)がまだ形成されていない段階です。次の観測点は、高品位スクラップの規格化が産業界で合意されるかどうかです。
週刊エコノミスト Onlineから フォロー 電炉に投入される鉄スクラップ=Bloomberg 以前からリサイクル率が高かった鉄。高品位のスクラップ確保に向けた取り組みが加速している。 鉄は、リサイクルが進んでいる素材である。この事実は業界では広く知られているが、一般には必ずしも強く意識されていないかもしれない。日本では鉄スクラップは長年にわたり有価で取引され、回収・流通システムが確立されてきた。磁力選別が可能で、再溶解時にも(銅など一部を除き)不純物の多くを取り除ける。そのため、リサイクルに伴う品質劣化は他の金属より比較的抑えられ、リサイクル率は9割程度ともいわれる。 もっとも、鉄がすでに高度に循環している素材であるからこそ、今後は回収量の拡大に加え、リサイクル材の質の確保も重要な課題となる。とりわけ、脱炭素を背景に電炉への転換が進むなか、この課題は一段と重みを増している。電炉は、鉄鉱石などのバージン材を主原料とする高炉と異なり、鉄スクラップを主原料とするため、不純物の量やばらつきが鋼材品質を直接左右する。つまり、電炉シフトの進展に伴い、スクラップの「量」の確保に加えて、「質」の安定確保がより重要になっている。 日本政府もこの状況を踏まえ、2026年の循環経済行動計画で鉄を重点分野に位置づけ、「グリーン鉄」の普及を掲げる。製鉄会社もこれを見据え、革新的大型電炉の導入を進めている。もっとも、電炉で競争力のある高級鋼を生産するには、高品位スクラップを大量かつ安定的に確保できるかどうかが鍵となる。政府が30年までに鉄スクラップを高品位化する処理能力を年間約200万トン追加的に国内で確保する目標を掲げたのも、このためだ。 では、高品位スクラップの需給はどう見通せるか。鉄スクラップは不純物含有率などで明確に規格化されているわけではなく、供給元(発生源)からその品質を推定せざるを得ない。供給される鉄スクラップは、製鉄所内で発生する内部スクラップ、自動車部品などの製造工程で発生する加工スクラップ、廃自動車などの使用済み製品から回収される老廃スクラップに大別される。内部・加工スクラップは不純物のばらつきが小さく高品位に分類される… ビジネス誌「週刊エコノミスト」のウェブ版に、各界の専門家やライターらが執筆します。
本文は配信元の記事から取得した抜粋です。
配信元の記事を読む →