制度・政策

【環境】グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026開催。開示から測定・実装・価値化へ。熊本宣言

2026-07-17
グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026が熊本市で開催され、開示から測定・実装・価値化への移行を目指す熊本宣言が発表された。

専門家の視点

ネイチャーポジティブを巡る議論は、情報開示から測定・実装・価値化へと段階を移しつつあります。しかし、ここに構造的なズレが潜んでいます。実体として、日本企業のTNFD採用表明は約235社に達し、開示の動きは確かに拡大しています。一方で、開示は行動変容の手段にすぎないとの認識が共有され、事業モデルそのものの変革が求められています。ここでの物語は「開示から実装へ」と前向きに描かれますが、実装を担う実行レイヤー、すなわち調達、生産設計、設備投資といった現場での具体的な行動変容が、企業の戦略としてどこまで深く組み込まれているのかは不透明です。期待は国際会議や宣言によって高まっていますが、実体である企業の事業モデル転換の速度は、物語が示すほど速くはない可能性があります。特に、自然資本を財務諸表へ反映する「Nature on the Balance Sheet」の議論は、会計基準や評価手法といった制度の非対称性が大きく、実装には長い時間軸が必要です。次の観測点は、熊本宣言が具体化する行動計画と、COP17での国際ルールの進展です。

ネイチャーポジティブの実現に向けた国際会議「グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット2026」が7月14日と15日、熊本市で開催された。2024年にオーストラリアで開催された第1回会合に続く第2回で、政府、国際機関、企業、金融機関、地方政府、研究機関、NGO、地域団体等が参加。当社ニューラルも現地参加した。 2022年に昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)が採択され、2020年を基準として2030年までに生物多様性損失を止め、反転させ、2050年までに自然を回復させる目標が掲げられた。2026年10月にアルメニアで開催される国連生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)では、各国の実施状況、資金動員、企業の役割等が議論される。 今回のサミットでは、ネイチャーポジティブを巡る議論が、目標設定や情報開示から、測定、実装、価値化の段階へ移りつつあることが繰り返し示された。初日には、企業戦略、金融、自然資本評価、地域での実装等を通じ、誰が何を変えるべきかが議論された。2日目には、その成果をどう測り、共通のデータや基準へ変換し、経営や投資の意思決定に使うかが議論された。終盤にはインフラと海洋へ議論が広がり、閉会式では「熊本宣言」が発表された。 企業の自然関連対応では、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言を活用し、自然への依存、インパクト、リスク、機会を分析する動きが広がっている。サミットでは、日本のTNFD採用表明企業が約235社に達する一方、AIを用いた別の分析では、採用表明の有無を問わず、TNFDに沿った報告を行う日本企業が約250社に上るとの推計が紹介された。 しかし、情報開示は最終目的ではない。自然関連リスクを把握しても、原材料調達、生産設備、商品設計、土地利用、投融資等が変わらなければ、自然損失は止まらない。生物多様性条約事務局のアストリッド・ショーメイカー事務局長は、開示は企業の行動変容を促す手段にすぎないと強調した。 企業には、自然保全活動を追加的に実施するだけでなく、自社の事業モデルそのものを自然の回復と整合させ、自然状態にどのような変化を生み出したかを示すことが求められる。また、ネイチャーポジティブを温室効果ガス排出量ネットゼロやサーキュラーエコノミー等とは別の独立したテーマとして扱わず、一つの企業戦略と資本配分の中で統合する必要がある。 サミットでは、自然を事業戦略へ組み込む必要性が、複数のセッションを通じて示された。例えばキリンホールディングスは、ブラジルのオレンジ生産への気候変動影響による調達コスト上昇や、米国のビール工場がハリケーンと洪水で被害を受けた経験を紹介。自然の変化は、将来の抽象的な環境リスクではなく、調達価格や操業へすでに影響している。 また、豪畜産大手オーストラリアン・アグリカルチュラル・カンパニー(AACo)は、土壌、水、牧草、生態系の状態が生産性や収益性を左右するため、自然は事業そのものだと説明。住友林業は、森林を単なる保全対象とせず、保全すべき区域を守りながら、伐採、木材の長期利用、再植林を循環させるウッドサイクルを紹介した。自然資本を維持しながら木材を調達し、建築事業や炭素固定、地域経済の価値に繋げることで、森林保全を事業モデルの中に組み込んでいる。 金融分野では、金融は実体経済から独立してネイチャーポジティブにはなれないとの認識が共有された。実体経済に自然を損なう事業が多ければ、それを支える投融資や保険引受もネイチャー「ネガティブ」に陥ってしまうためだ。 特に保険では、自然損失や気候変動で災害リスクが高まり、保険料が上昇すれば、企業や家計が適切な条件で保険へ加入できなくなる。保険を付けられない不動産や事業は、融資や投資の対象にもなりにくい。自然損失は、保険金支払額だけでなく、資産価格、信用供与、企業立地、地域経済へ連鎖する。 そのため保険会社の役割は、災害発生後の補償から、森林、湿地、水資源等を保全し、災害リスク自体を下げる事前のリスク削減へ広がっている。金融機関には、投融資方針、保険引受、企業とのエンゲージメント、金融商品の組成等を通じ、自然を損なう活動から自然を回復させる活動へ資金を移す役割がある。 自然を企業価値へ組み込む考え方として、「Nature on the Balance Sheet」も議論された。企業は財務資本だけでなく、自然資本、社会資本、人的資本に依存する。しかし現在の企業評価では、森林、水、土壌、生態系等がもたらす便益や、その劣化による損失は十分に認識されていない。 今回の議論は、自然への依存、リスク、機会を企業価値や投資判断へ反映する段階からさらに進み、森林や生態系等の自然資本を、既存の会計制度の下で資産として認識し、財務諸表へ反映

本文は配信元の記事から取得した抜粋です。

一次ソース

配信元の記事を読む →
← GXニュース一覧に戻る