企業動向

日立、エレベーターを「フィジカルAI」へ 新型機で設備データ活用を加速:FM(2/4 ページ)

2026-07-09
日立がエレベーターの新型機でデータ活用による脱炭素化やスマート化を推進する事例を報じている。

専門家の視点

エレベーターは建築物の「縦の動線」であり、ビル全体のエネルギー消費に占める割合は決して小さくありません。日立が発表した新型機「アーバンエース HF Mirai」の核心は、光学式センサーによる部品点数削減と据付工数削減という「実体」の効率化にあります。しかし、記事は「フィジカルAI」という物語を前面に掲げながら、肝心の脱炭素効果が具体的な数値(例えば、運用時の消費電力削減率やライフサイクルCO2削減量)で示されていません。ここに「物語先走り」の構造が潜んでいます。 見逃せないのは、作業者の安全確認をAIが代行する「AI Safety Solution」が、熟練技術者の暗黙知を形式知化せずにAI判定に委ねる点です。判定が難しいケースのみ監督者が目視で判断するとされていますが、「判断が難しい」を誰がどう定義するのか、という制度・手続きの非対称性が現れています。実行レイヤーであるフロントラインエンジニアの業務負荷が、AI導入によってかえって二重化(AI判定+監督者判断)するリスクが読み取れます。 隠れた前提は「脱炭素はセンサーとデータで実現できる」という信念です。

日立製作所と日立ビルシステムは、ビル設備や人の活動から得られるデータとAIを活用した保守業務の効率化や設備運用の高度化を進めている。2026年4月には次世代コネクテッドエレベーター「アーバンエース HF Mirai」を発売。ビル向けデジタルサービス「HMAX for Buildings」を通じ、エレベーターを起点とした設備データ活用を推進する。 説明会に登壇した日立製作所 アーバンソリューション&サービスビジネスユニット ビルシステムソリューション&サービス事業統括本部 日本事業統括本部長 兼 日立ビルシステム常務取締役 日本事業統括本部長 高橋達法氏はビル事業を取り巻く環境について、「気候変動に伴う災害の激甚化や頻発化、労働人口の減少、エネルギー/原材料価格の高騰など社会環境が大きく変化する中、デジタル技術をいかに活用して課題に対応するかが重要になっている」と指摘する。 アーバンエース HF Miraiは、レジリエンス強化や部品/工数削減、スマート化/脱炭素化、利便性向上を追求するとともに、HMAX for Buildingsによる設備データ活用を取り入れた次世代コネクテッドエレベーターだ。 ビル管理者や保守を担うフロントラインエンジニア、利用者などから取得する多様なデータをネットワーク経由でサイバーだけでなく現実空間でも活用し、エレベーターの「フィジカルAI」化を進める。 HMAX for Buildingsでは設備監視/保守に加え、現場作業を支援する「AI Safety Solution」も展開している。作業者が安全確認ポイントを撮影/送信すると、AIが画像を基に安全確認を行い、判定が難しい場合のみ監督者が目視で判断する。また、ウェアラブルカメラの映像をAIがリアルタイムで解析し、危険作業を検知するとスマートフォンを通じて音声で注意喚起する。 今後は、安全管理だけでなく、作業手順のガイドや報告書作成支援など、フロントラインエンジニアの業務全体を支援するサービスへと機能を拡充する計画だ。 アーバンエース HF Miraiの特徴の1つが、光学式センサーを採用した新電子安全システムだ。ガイドレール表面にLEDで光を照射し、反射した光を画像としてイメージセンサ―で撮影。移動量を画像解析によって算出し、かごの位置と速度を高精度に検出する仕組みで、日立製作所によると、この方式を採用したエレベーターは業界初。 従来のエレベーターでは、機械式ガバナやガバナロープ、各階遮蔽板、光電装置など複数の部品を組み合わせて位置や速度を検出していた。新モデルでは、かご上部に設置した光学式センサーへ速度/位置検出機能を集約することで、ガバナロープなどの長尺部材や関連部品を削減。乗り心地を調整する作業も自動化し、月300台を前提に試算した場合、従来モデルと比べて総据付作業時間を月1080時間削減できる。 高橋氏は、「部品の取り付けや調整に要する時間を削減できるだけでなく、ガバナロープが不要になることで昇降路内の構造がシンプルになる。地震時にロープが引っ掛かるリスクも低減できるなど、部品点数の削減はレジリエンス強化にもつながる」と説明した。 光学式センサーには、日立グループが医療用分析装置やロボット制御で培ってきた光学計測技術と画像処理技術を活用した。ガイドレールとの距離が変化しても検出精度への影響を受けにくく、地震などによる振動にも強い他、特殊レンズの採用により、粉じんが多い工場やダムなどの過酷な環境でも利用できる。 Copyright ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

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