再エネ・技術

キリンビール千歳工場、熱工程に「再エネ水素」活用 - ニュース

2026-07-09
キリンビール千歳工場がビール製造工程のボイラー燃料をグリーン水素に転換する実証事業を開始した

専門家の視点

キリンビール千歳工場が熱工程でグリーン水素を活用する実証事業は、製造業の脱炭素において「実体」が確実に動いている事例です。工場単位で再エネ由来水素をボイラー燃料に転換する試みは、技術的には可能ですが、現時点ではコストや水素供給インフラの未整備という物理制約が「実体」として存在します。この実証が注目されるのは、ビール製造というプロセス熱需要の大きい産業で、化石燃料代替の現実的な可行性を試す点にあります。 一方、「物語」としては、キリンホールディングスが掲げる「GXビジョン」や2050年カーボンネットゼロ目標が背景にありますが、実証規模や期間、事業化のKPIが公表されていないため、物語の具体性には欠けます。実体が動いているにもかかわらず、その成果がどう評価され、次にどうつながるかの「経路」が描かれていない点が課題です。 「期待」のレイヤーでは、このような実証が積み重なることで産業用水素需要の本格化への期待が高まる一方、現状では水素価格が天然ガスの数倍であるという経済合理性の壁があり、市場が過度に反応する段階ではありません。

北海道千歳市にある「キリンビール北海道千歳工場」では、ビール製造ラインの熱工程の一部をグリーン水素へ転換する実証事業を7月から開始した。7月6日、この事業で新設した水素製造設備などの開所記念式典を開催した。 実証事業では、新設した太陽光発電と商用系統の電気で水を電気分解して水素を製造し、工場設備に新規に導入した水素燃料ボイラーの燃料として活用する。 水素製造設備の構成は、100Nm3/hの水電解装置・2台、同電解装置に直流電流を送る整流器のほか、こうした設備を冷却するための冷却塔や空冷チラーなど。工場内には2t/hの水素ボイラーを導入した。水素製造設備と工場内の水素ボイラーとの間には、公道を挟んで水素導管を地中に埋設し、水素を供給する。また、太陽光発電設備は、出力約284kWの太陽光パネルと出力200kWのパワーコンディショナー(PCS)から構成される。 水電解装置には、高砂熱学工業製のPEM(固体高分子)型、整流器にはTMEIC(ティーマイク)製の自励式を採用した。水素を燃料にするボイラーの設計は三浦工業が担当した。また、太陽光パネルは中国JAソーラー製の両面発電タイプ448枚、PCSには中国ファーウェイ製の分散型タイプを4台設置した。 事業スキームは、三菱商事と高砂熱学が出資するMTグリーンエネルギー(東京都千代田区)が、水素製造設備の運転・維持管理を担い、水素を製造してビール工場に供給する。また、三菱商事クリーンエナジーが出資するMCKBエネルギーサービス(東京都千代田区)が、水素ボイラーを活用して水素由来の蒸気を製造して工場に供給する。 ビール製造では、麦汁煮沸などの加温工程で大量の蒸気を使用する。従来は、ボイラーで都市ガスを燃やして蒸気を作っていたが、この一部を水素で置き換えることにより製造工程でのCO2排出を削減する。試算では、年間約23%の熱需要を水素に代替し、年間約464tのCO2排出量を削減できる。水素製造に使う電力のうち、3分の1が太陽光発電、残りに3分の2は系統電力になるため、この分は非化石証書で脱炭素化する。 実証期間は10年間で、キリンビールでは、この間に安全性と技術面の評価のほか、都市ガスと比べた経済性に関しても検証し、将来的な他工場への展開なども検討していく。 Copyright 2026 Nikkei Business Publications, Inc. All rights reserved. このページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。著作権は日経BP、またはその情報提供者に帰属します。 掲載している情報は、記事執筆時点のものです。

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