出光興産・酒井社長が明かす「脱炭素から石油へ」の回帰
専門家の視点
出光興産が「石油回帰」を掲げる背景には、石油・化学・アンモニアなど既存事業の収益力を軸に、カーボンリサイクルや合成燃料への移行資金を内部で賄うという現実的な経営判断があります。実体として、脱炭素投資には巨額の資金と長期の回収期間が必要であり、外部市場からの資金調達だけではリスクが大きいという物理制約があります。しかし、この「石油で稼ぎながら脱炭素に移行する」という物語には、CO2排出量と削減投資のKPIが明確に示されておらず、具体性に欠けるという課題があります。期待のレイヤーでは、投資家は短期的な石油収益の安定を歓迎する一方、ESG評価機関や環境NGOからは「脱炭素へのコミットメントが後退した」と見なされ、株式市場とESG市場の間で異なる評価を受ける可能性があります。ここで隠れた前提は「石油の需給が今後も安定的に続く」という仮定ですが、EV普及や中国の需要減速といった実体の変化がこの前提を揺るがしつつあります。この構造から見えるのは、日本企業が「両利きの経営」を掲げる際、実体面での収益とPR面での物語の間に慎重な整合性が求められるという点です。
出光興産は2026~30年度の新中期経営計画を公表し、脱炭素を軸とした前中計から足元の石油事業強化へと方針を転換した。脱炭素の機運が萎む中、石油元売りは祖業への投資をどのように将来に生かすのか。長期連載『エネルギー動乱』の本稿で、酒井則明社長に新中計の狙いと展望を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 鈴木文也) ――新中期経営計画のポイントを教えてください。 ポイントとしては、前中計からバランスを見直しました。当社の一番のベースである石油、燃料という足元に近い事業と、対照的にカーボンニュートラルトランスフォーメーション(CNX)という社会実装が先となる将来に向けた事業領域を色分けしたということです。 ホルムズ海峡が封鎖される以前から、先行きの見通しが不確実になるという議論を社内で行っていました。石油を中心に足元の事業をもう一度フォーカスし直し、やれていないことに力を入れて収益を確保しながら、中期的に成長していく領域やもう少し先のCNXの世界に必要な投資をしていく。 そのために足元の見えやすいところでしっかりと稼いで先への投資に回すというリバランスをもう一度したということです。 ――前中計は「脱炭素」との記載で表記が統一されていましたが、新中計では「低/脱炭素」という表記が多々あります。この間の脱炭素を巡る環境の変化を教えてください。 この間、カーボンニュートラルへの取り組みが世界的にスローダウンしたことは否定できません。まだまだ技術面やコスト面での課題から脱炭素には時間がかかるかもしれませんが、段階的に低炭素を行えるという思いがあり低炭素という文字を加えました。 脱炭素という言葉は二酸化炭素を出さないものという印象が強かったように思います。ただ、本来のカーボンニュートラルの意味は炭素を全く出さないという意味ではなく、発生した炭素を回収したり二酸化炭素を活用したりして文字通りニュートラルな状態にしようというものです。 よりニュートラルな状態を想起することができ、低炭素から将来的に脱炭素に進めるためにこの言葉を使いました。 ――冒頭の発言であった「やれていないこと」とはどのような点でしょうか。 世界の脱炭素シフトが減速する中、出光興産は既存の石油事業をもう一度稼ぎ頭として鍛え直す決断を下した。しかし、それは単なる「古いエネルギーへの先祖返り」を意味しない。激変する国際情勢を勝ち抜くため、彼らが仕掛ける驚きのグローバル戦略と、次なる「エネルギーの種まき」の全貌とは――。次ページで酒井社長がその具体策を語る。
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