産業界の脱炭素化の動きを背景に、世界の小型モジュール炉(SMR)市場は2035年までに87億6,000万米ドルを超えると予測されています。
企業のGX対応事例として、現場で何が求められるかを知る手がかりになります。
専門家の視点
SMR市場が2035年までに87億6,000万ドルを超えるという予測は、脱炭素電源への期待を数字で可視化したものです。しかし実体として、現時点で商用運転に至ったSMRは世界に一つもなく、規制認可・建設コスト・使用済み燃料処理という三つの物理的制約が未解決のままです。この予測は「産業界が求める安定した脱炭素電源」という物語を、技術の実装速度が上回っている構造、つまり物語先行型です。 特に日本では、原子力規制委員会の新規制基準に適合するSMRの審査手続きが未整備であり、仮に技術が確立しても導入まで10年以上かかる可能性があります。市場予測が当然としている「規制の迅速な国際調和」という前提は、現実の安全審査の非対称性(設計は早いが認可が追いつかない)を軽視しています。 見るべきは、この予測が喚起する期待が投資家やエネルギー政策に与える影響です。実体なく物語と期待だけが先行すれば、他の脱炭素技術(蓄電や水素)へのリソース配分が歪むリスクがあります。SMRの市場規模は、導入の実現性より「いつ効くか分からない選択肢」としての象徴的価値で語られているのが現状です。