カーボンクレジットは「買う」から「創る」へ
専門家の視点
カーボンクレジットを「買う」から「創る」へという物語は、GX-ETS本格化やサプライチェーン要請という実体変化に基づいています。しかし、この物語には二つのズレが潜んでいます。一つは、クレジット創出を「既存事業の見直し」と位置づける優しいフレームと、実際の制度適合性・算定・モニタリング・販売という複雑な実務との距離です。記事は課題に触れつつも「可能性」に比重があり、実行レイヤーの人材不足やコスト回収の不確実性が軽視されがちです。もう一つは、対象企業が大企業だけでなく中小企業にも広がるとしながら、中小企業にクレジット創出を実行する専門知と時間が十分にあるのかという現実です。2026年制度開始まで残り2年足らず、創出には実証・認証に年単位を要します。つまり、物語は機会を強調する一方で、企業が今から動かないと制度に間に合わないという時間圧力を隠しています。この構造が示すのは、クレジット創出支援の需要は確かに高まるが、その成否は「誰が・いつ・どのように実行するか」という現場の実行力に依存する点です。
カーボンクレジットというと、これまでは自社の排出量を相殺するために「購入するもの」というイメージが強かったかもしれません。 しかし近年は、自社の省エネ活動、再エネ設備、森林・農地、削減技術などを活用し、クレジットを「創る」ことへの関心も高まりつつあります。 背景にあるのは、GX-ETSの本格化や、サプライチェーン全体での脱炭素要請の広がりです。経済産業省によると、2026年度からは、CO₂の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者を対象とする排出量取引制度が本格稼働します。 こうした制度変化により、企業にとって重要になるのは、単にクレジットを調達することだけではありません。自社の削減活動や保有資産を、どのように環境価値として可視化し、事業に活用していくかという視点です。 クレジット創出支援のニーズが高まっている理由は、大きく3つあります。 1つ目は、制度対応の必要性です。GX-ETSの本格化により、大企業を中心に、排出量の把握、削減計画、排出枠・クレジットの活用がより重要になります。 2つ目は、サプライチェーンへの波及です。排出量取引制度の対象企業だけでなく、その取引先にも、CO₂排出量の算定や削減に関する要請が広がりつつあります。日本・東京商工会議所の2025年度調査でも、中小企業の21.3%が取引先から脱炭素に関する要請を受けているとされています。排出量取引制度の対象企業だけでなく、その取引先にも、CO₂排出量の把握や削減に関する対応が広がりつつあることがうかがえます。 3つ目は、脱炭素対応を単なるコストで終わらせたくないという企業側のニーズです。省エネ設備の導入や森林管理、農業分野での取り組みなどは、条件が合えばクレジットとして価値化できる可能性があります。J-クレジット制度でも、省エネルギー機器の導入や森林経営などによる温室効果ガスの排出削減量・吸収量を、国がクレジットとして認証するとされています。 つまり、クレジット創出は「環境対応のために必要なもの」であると同時に、企業の既存事業や保有資産を新たな価値につなげる手段にもなり得るのです。 クレジット創出支援が必要となる企業は、必ずしも大企業や排出量の多い企業だけではありません。自社の事業、資産、技術の中に、環境価値として活用できる可能性がある企業であれば、検討の余地があります。 すでに省エネ、再エネ、廃棄物削減、農業・森林関連の取り組みを行っている企業は、その活動がクレジットとして価値化できる可能性があります。 ポイントは、「新しく何かを始める」のではなく、既存の事業や取り組みを環境価値として見直すことです。 たとえば、省エネ設備の導入による排出削減、森林管理による吸収量の増加、農業分野でのメタン削減などは、制度や方法論に適合すれば、クレジット創出につながる可能性があります。 森林、農地、施設園芸、地域資源などを保有する企業にとって、クレジット創出は資産の新たな活用方法になり得ます。 これまで単なる土地や施設として見られていた資産も、脱炭素の文脈では、CO₂削減・吸収に貢献する環境価値として再評価される可能性があります。 また、クレジット創出は収益化だけでなく、地域貢献、ESG対応、企業PRにもつながります。 脱炭素対応には、設備投資や運用改善など、どうしてもコストがかかります。 しかし、その削減効果を適切に算定し、クレジット化できれば、コストの一部を回収できる可能性があります。 たとえば、LEDや空調設備の更新、ボイラーの高効率化、燃料転換などは、削減量を定量化しやすい取り組みです。ただし、すべての取り組みがクレジット化できるわけではないため、初期段階で制度適合性や費用対効果を確認することが重要です。 新素材、燃費改善技術、CO₂吸収技術、農業技術、メタン削減技術などを持つ企業にとっても、クレジット創出は重要なテーマです。 既存の方法論にすぐ当てはまらない場合でも、削減効果の整理、データ収集、実証設計を進めることで、将来的なクレジット化やScope3削減、インセット活用につながる可能性があります。 J-クレジット制度では、排出削減・吸収に関する技術ごとに、適用範囲、算定方法、モニタリング方法などを定めた「方法論」が用意されています。そのため、新しい技術や取り組みを環境価値として活用するには、どの制度・方法論に適合するのかを整理することが重要です。 クレジット創出は、削減活動を行えば自動的に認証されるものではありません。 制度に適合するか、削減量・吸収量をどう算定するか、必要なデータをどう集めるか、モニタリング体制をどう整えるか、創出後にどのように活用・販売するかなど、複数の実務論点があります。 そのため、クレジット創出支援では、主に以下のようなステ
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