排出量算定

改定SBTiの最終版を解説㊦ スコープ3、柔軟な運用ルール

日本経済新聞 2026-06-28
改定SBTiの最終版におけるスコープ3の柔軟な運用ルールについて解説している

専門家の視点

改定SBTiのスコープ3ルールは、「柔軟化」の名の下に、実質的に目標設定の骨格を企業の自主判断に委ねる構造へと舵を切りました。ここで問うべきは、排出量算定の精度や削減経路の厳格性ではなく、「誰がこの柔軟性を活用できるのか」という実行レイヤーの非対称性です。サプライチェーン全体を掌握する大企業と、情報開示やデータ収集にリソースを割けない中小企業とでは、同じ「柔軟性」が全く異なる意味を持ちます。前者にとっては戦略的な選択肢の拡大であり、後者にとっては何をどう測り、どこから手をつければよいかがさらに不明確になるリスクです。つまり、この改定は物語としては「脱炭素の現実的な普及促進」を掲げますが、実体としては「情報と実行力のあるプレイヤーに有利な非対称な競技ルール」へと傾いています。市場や投資家の期待はこの差を読み切れず、一律に「目標設定しやすくなった」と楽観視する危険があります。日本企業が取るべきは、このルールを単なる緩和と受け取るのではなく、自社のサプライチェーン上の情報非対称性を可視化し、協調して実体開示を進めるための内部基盤整備の契機とすることです。

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