政府、GHG算定に使う「排出原単位」を大幅減: 重厚長大産業は5割減も
専門家の視点
排出原単位の大幅な減少は、実体としては物価上昇と基礎データの更新という統計処理上の変化に起因しており、企業の脱炭素努力が直接反映された結果ではないという構造が浮かび上がります。この点で、物語(「日本企業には朗報」)と実体との間にズレが生じています。企業にとっては、同じ生産量でも算定上の排出量が減るため、対外的な開示数値は改善します。しかし、海外投資家が疑問視する根拠や継続性の問題は、この「数値の見かけ上の改善」が実質的な排出削減と誤認されるリスクを指しています。さらに、Ver.3.6が暫定版であり、算定手法が従来と異なるため、過去の排出量との単純比較がグリーンウォッシュにつながる可能性が専門家から指摘されています。ここでの隠れた前提は「原単位の更新は企業の削減努力を正しく反映する」という点ですが、実際には統計の基準年変更が主因であり、実質的な削減ではなく「数字のゲーム」が進行している側面があります。結局、この事例は「実体が翻訳されていない」構造の典型です。
日本政府は、企業がサプライチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量を算定する際に使う「排出原単位」を大きく減らした。特に、鉄鋼やセメントなど重厚長大産業が利用する品目の排出原単位は2~5割程度減ったものが少なくない。日本企業には朗報だが、海外の投資家などからは原単位の根拠や算出の継続性を問う声も出ている。(オルタナ輪番編集長=池田真隆) 企業がサプライチェーン全体のGHG排出量を算定する際に使うものが、「サプライチェーン排出量算定用排出原単位データベース」だ。環境省がまとめているこのデータベースが大きな転換点を迎えた。 環境省は2026年4月、Ver.3.6を公表した。Ver.3.6では、多くの品目の排出原単位が、25年3月に公表したVer.3.5と比べて、大きく減った。特に、鉄鋼や非鉄金属、セメントなど重厚長大産業で利用する多くの品目が2~5割程度下がった。 企業の脱炭素への取り組みが急速に進んだ結果なのか――。実は、そう単純な話ではない。今回の更新は、スコープ3のGHG排出量開示の実務に新たな課題を投げかけている。 このデータベースの策定を担当した、環境省地球温暖化対策課 脱炭素ビジネス推進室によると、排出原単位が下がった要因は、データベースの数値を定める「基礎データ」を更新したことが大きいという。 基礎データとは、日本の産業連関表を基に算出した環境負荷原単位データベースを指す。3EID(エンボディド・エナジー・アンド・エミッション・インテンシティ・データ・フォー・ジャパン・ユージング・インプット・アウトプット・テーブルズの略)と呼ばれるもので、国立環境研究所が開発したものだ。 Ver.3.5では2005年の3EIDを使っていたが、Ver.3.6では2020年のものに更新した。もともと、環境省には、物価上昇も加味した排出原単位に更新して欲しいなどの要望が多く届いていた。その要望に応えた形だ。 Ver.3.5との違いは基礎データだけではない。これまでは国立環境研究所が開発したGLIO(グローバル・リンク・インプット-アウトプット)を用いて海外サプライチェーンを反映していたが、Ver.3.6では2020年版の3EIDに加え、国際産業連関データベース「GLORIA(グロリア)」、普通貿易統計、2020年産業連関表を組み合わせる新たな手法を採用した。環境省は「従来のGLIOとは異なる手法で算定している」と説明しており、今回公表したデータはあくまで「暫定版」と位置付けている。 ■銅・鋳鉄管は50%減、鋼管も約40%減に■排出原単位が下がった背景に「物価上昇」■実務担当者は「比較可能性」で悩む■過去の排出量との単純比較はグリーンウォッシュに■SSBJ時代には「数字の背景」が問われる 株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。
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