制度・政策

CSDDDと責任ある調達、簡素化しても後退しない

2026-06-30
欧州CSDDDの簡素化の動きについて、責任ある調達の実務が後退しないよう論じている

専門家の視点

欧州CSDDDの簡素化を「後退」と捉えるか、「質的転換」と捉えるかで、実務上の対応は大きく変わります。実体として起きているのは、対象企業の絞り込みと気候移行計画義務の削除という明らかな規制緩和です。しかし同時に、残った制度の本質は「深刻な影響が起こりやすい領域への重点化」であり、形式的な網羅的対応から、リスクの優先順位付けと実効性のある改善へと軸足を移すという、規制の質が変わったと読めます。ここで問題となるのは「物語」の構築です。簡素化イコール後退、という単純なフレーミングは、残された制度の要求水準の高さを覆い隠します。企業にとっては、適用範囲が狭まったから安心、ではなく、むしろ監視の目が「本当に深刻な領域」に集中するため、対応の優先順位を誤ると大きなレピュテーションリスクに直結するという新たな緊張関係が生まれています。時間軸で見れば、2029年7月の遵守開始までに、この質的変化に合わせたデューデリジェンスの実装プロセスを設計できるかどうかが、日本企業を含むグローバル企業の分かれ道です。

欧州のCSDDD(企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令)は、企業に対し、自社だけでなく子会社、取引先を含むバリューチェーン全体における人権・環境リスクの特定、防止、軽減、是正を求める制度である。2024年7月に発効した同指令は、強制労働、児童労働、環境汚染などを企業の経営管理に組み込むことを求めてきた。しかし2025年以降、EUでは競争力強化と企業負担軽減を目的とした「Omnibus」簡素化が進み、CSDDDも大きく見直された。 前回3月号でお伝えした通り、当時の焦点は「Stop-the-clock」による適用時期の後ろ倒しと、対象・義務を再設計する簡素化議論であった。その後の進捗として、2026年2月24日、EU理事会はCSDDDとCSRDの簡素化に最終承認を与えた。CSDDDの対象は、従業員5,000人超、純売上高15億ユーロ超の企業へと絞り込まれ、対応範囲も深刻な負の影響が起こりやすい領域に重点化された。企業の遵守開始は2029年7月へと後ろ倒しされ、気候移行計画の採択義務やEU共通の民事責任制度も削除された。 この動きだけを見れば、CSDDDは「後退」したように映る。確かに対象企業の縮小や義務の簡素化は、とりわけ中小企業への過剰な情報要求や監査負担を軽減する効果を持つ。一方で、制度が簡素化されたからといって、人権・環境リスクそのものが消えるわけではない。むしろ、形式的な網羅対応から、重大なリスクを見極め、優先順位をつけ、実際の改善につなげる力が問われる局面に入ったと見るべきである。 欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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