給油取扱所での水素製造に道 MCH改質装置の基準新設と保有空地の柔軟化 総務省・消防庁
専門家の視点
今回の消防庁の省令改正は、給油所でのMCH改質による水素製造を可能にする基準を新設し、同時に保有空地や保安距離の規制を柔軟化するものです。この構造をSNEモデルで分析します。 まず実体として、MCH改質装置の設置基準は、廃油タンク容量3万リットル以下や漏洩時の自動停止装置など具体的な安全要件を定めており、技術的には既存の給油所網を水素供給拠点に転用する経済合理性を高めます。また、保有空地の柔軟化は耐火構造の塀や散水設備など代替措置を認めるもので、都市部での施設立地という物理制約を緩和します。これらは測定可能な制度変更です。 物語としては、2050年カーボンニュートラルに向けた水素利用基盤整備として安全枠組みを再構築するという明確な目的が示されていますが、肝心の「給油所事業者が実際にいつ・どの程度のコストで改質装置を導入するのか」という実行レイヤーの具体像や、導入後の水素需要が見通せているかという検証KPIは欠落しています。 期待については、この制度改正自体は規制の足かせを外すものですが、MCH供給網や水素需要が同時に整備されなければ投資は進みません。
総務省は2026年6月29日、危険物の規制に関する規則の一部を改正する省令(総務省令第83号)および危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示の一部を改正する件(総務省告示第241号)を公布した。林芳正総務大臣の名で公布されたもので、施行は公布の日の翌日からとなる。今回の改正は、消防庁が開催してきた「水素等のGX新技術に係る危険物規制に関する検討会」の結論を踏まえた内容と、学校教育法の一部を改正する法律(令和6年法律第50号)の施行に伴う規定整備を一体的に盛り込んだものだ。 Photo by moonrise/ Adobe Stock改正の柱は四つに整理できる。第一が、危険物施設の周囲に確保が義務付けられてきた保有空地の規制見直しである。これまでは延焼防止のために一定幅の空き地を設けることが求められてきたが、耐火構造の塀の設置、延焼防止上有効な散水設備等の設置、出入口周辺への消防活動のための空地の確保といった措置を組み合わせて講じる場合には、空地の幅を縮減し、要件を満たせば空地を設けないことも認められる。判断基準として、危険物施設で火災が発生した場合に隣接する建築物等の外壁が燃焼せず、防火上又は構造耐力上支障のある損傷を生じないことが求められる。あわせて、隣接側で火災が発生した場合にも、危険物施設の外壁が同様に支障のある損傷を生じないことが要件とされた。 この保有空地の見直しと並行して、危険物施設と高圧ガス施設等との間に設ける保安距離についても特例が新設される。耐火構造の塀の設置その他の防火上有効な措置を講じた場合には、輻射熱や爆風圧によって相互の外壁や保安に関する設備に支障を生じない距離をもって保安距離と認める考え方だ。安全性を物理的な離隔距離だけでなく構造的な防護措置によっても担保する方向に踏み出した点が、今回の見直しの特徴といえる。 第二の柱は、給油取扱所における水素製造装置の規制整備である。電気を動力源とする自動車等に水素を充塡するための設備を備える給油取扱所に、メチルシクロヘキサン(MCH)から水素を取り出す改質装置を設置する場合の基準が新たに規定された。MCHは常温常圧で液体として扱える水素キャリアとして実用化が進む物質で、給油取扱所の既存設備を活用した水素供給拠点の整備に直結する。改正後は、改質装置に接続する廃油タンクの容量を3万リットル以下とし、MCH、水素、トルエンのいずれかが漏えいした際には改質装置の運転を自動的に停止させる装置の設置を求める。また、改質装置における危険物の取扱量は指定数量の150倍未満に抑えることとされた。 第三の柱は、移送取扱所の配管に関する規制の合理化である。事業所の敷地内に設置される地上または地下の配管については、これまで一律に課されてきた配管最小厚さの規定を適用しないこととし、告示で定める破損試験で安全性が確認されたものを含めて柔軟な設計を認める。配管等の材料についても、これまでは設置場所の状況等から困難な場合に限って認められていた「同等以上の機械的性質を有するもの」の使用を、設置場所の状況にかかわらず認めることとした。 第四の柱は、甲種危険物取扱者試験の受験資格に関する規定整備である。学校教育法の改正により専修学校制度が見直されたことに対応するもので、専修学校の特定専門課程の修了者などを受験資格の対象として明示するなどの整理が行われた。あわせて、専門職大学の前期課程を修了した者も受験資格に含まれることが明確化されている。受験資格に関する規定のうち専修学校の専門課程に係る部分は、2026年4月1日以後に同課程に入学した者から適用し、それ以前の入学者については従前の例によるとする経過措置が設けられた。 今回の改正は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて水素利用の基盤整備を進めつつ、安全確保の枠組みを技術の現状に合わせて再構築する性格をもつ。保有空地および保安距離の特例拡大は都市部での水素関連施設の立地余地を広げ、MCH改質装置の基準整備は既存の給油取扱所網を水素供給の担い手として組み込む道筋を開く。教育制度改正への対応も同時に行われたことで、危険物取扱に関わる人材育成の入り口も新制度と整合する形に整えられた。事業者にとっては、改正内容を踏まえた施設設計や資格取得計画の見直しが今後の検討課題となる。
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