水素製造PEM水電解におけるイリジウム触媒の使用効率向上と使用量低減に関する新知見を発表―コロンビア大学への委託研究成果が国際学術誌に掲載― | 2026年度 | JX金属
専門家の視点
この発表の実体は、実験室レベルでイリジウム使用量を約80%削減可能な触媒構造を確認した基礎研究成果です。ただし「使用量低減」と「効率向上」の同時実現は、特定の評価条件での数値であり、実証スケールやコスト試算には至っていません。物語は「脱炭素・エネルギー安全保障・産業競争力」という社会課題と直結させることで、基礎研究段階の成果に大きな意義を付与しています。期待レイヤーでは、2050年カーボンニュートラルに向けた技術ブレークスルーとして市場が過度に反応するリスクがあります。 ここで生じるズレは「実体が翻訳されていない」構造です。実験室で確認された性能向上のポテンシャルは確かに存在しますが、量産時の触媒担持プロセスや電解槽全体の耐久性、廃棄・リサイクルまで含めたトータルコストは未検証です。隠れた前提は「イリジウム使用量低減さえ実現すればグリーン水素が普及する」という発想です。実際には電解装置の設備費や再生可能エネルギー電力の安定調達など、触媒以外の制約も普及の壁として残り続けます。
JX金属株式会社(社長:林 陽一、以下「当社」)は、水素製造に用いられるPEM(プロトン交換膜)水電解※1において、触媒として使用するイリジウム※2の使用効率向上および使用量低減に関する新たな知見を獲得しましたのでお知らせします。本研究成果は、米国コロンビア大学Jingguang G. Chen 教授との委託研究を通じて得られたものであり、触媒分野の国際学術誌 ACS Catalysis に掲載されました※3。 2050年のカーボンニュートラル実現に向け、次世代エネルギーとして水素の利活用に関する取り組みが世界的に進められており、中でもグリーン水素※4は、脱炭素社会の実現に加え、エネルギー安全保障の強化、産業競争力の向上といった観点からも期待が高まっています。グリーン水素製造方法のひとつであるPEM水電解は、高純度の水素を効率的に製造できる点で注目されていますが、高価かつ希少なイリジウムを触媒として使用するため、コストと資源の制約が普及の課題となっています。 こうした課題に対し、イリジウム使用量の低減と触媒性能の維持・向上を両立させるための研究開発が活発化しています。当社は、レアメタル材料の粉体制御・表面/界面制御など、これまで培ってきた技術の知見を活かせる新規事業テーマのひとつとして本分野に着目しており、将来的な事業化可能性の検証も見据えて、コロンビア大学へ委託研究を実施しています。 本研究では、電気伝導性と電気化学的安定性を兼ね備えたタンタルカーバイド(TaC)を支持体として用い、その表面にイリジウム酸化物(IrOX)を担持※5した電極触媒に着目し、酸性条件下での反応性能や、長時間使用した際の安定性を評価しました。 その結果、IrOX/TaC触媒は、評価条件によっては従来広く用いられてきたIrO2触媒と比較して最大約6倍の高いイリジウム質量活性※6を示しました。これは、イリジウム使用量を約80%低減できる可能性を示唆しています。加えて、0.5 A cm-2での200時間の連続運転試験において、劣化率36 μVh-1と耐久性の面でも有望であることが確認されました。さらに、IrOX/TaC界面に形成されるIr-O-Ta結合により、従来のIrO2触媒に比べて酸素発生反応の過電圧が低下することが示されました。これらの結果は、より少ない電気エネルギーで水素を製造できる可能性も示すものであり、イリジウム使用量の削減と水電解効率の向上を同時に実現する新たな材料設計指針となりうることが期待されます。 当社は、「2040年JX金属グループ長期ビジョン」において、装置産業型企業から技術立脚型企業への転身を掲げ、フォーカス事業における収益規模の拡大に向け新規事業の創出に注力しています。当社は、本件のみならず、着目する注力分野で、これまでの事業で培ったコア技術を活かしながら、価値創出につながる領域への挑戦を積極的に進め、新規事業の創出を加速していきます。 当社は今後も、パートナーとの共創による研究開発を通じて、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。 ※1 固体高分子膜を用いて水を電気分解し、高純度水素を製造する技術。 ※2 イリジウム(原子番号77、元素記号Ir)は、白金族に属する貴金属であり、かつ極めて高い耐食性・高融点を持つ希少なレアメタルです。化学反応の触媒の他、自動車のプラグ、るつぼ等に利用されています。 ※3 Sinwoo KangXue, HanNathaniel N. Nichols, Tianyou Mou, Yong Yuan, Byeongjun Gil, Yimei Zhu, Long Pan, Hideki Furusawa, Koichi Katayama, Ping Liu, Jingguang G. Chen (April 5, 2026) Enhancing Acidic Oxygen Evolution Activity by Supporting Iridium Electrocatalysts on Tantalum Carbide, ACS Catalysis, Articles ASAP (Research Article), https://doi.org/10.1021/acscatal.6c00063 ※4 再生可能エネルギーを使ってCO2をほとんど排出せずに水を分解し製造された水素の事。 ※5 触媒として働く成分を別の材料の表面に固定・分散させる手法 ※6 単位質量当たりの触媒の活性のことで、燃料電池触媒のコスト削減における重要指標の一つ。触媒の量が多いほど質量は増えるため、少ない触媒量で高い反応速度を得るためには高い質量活性が必要となる。 IrOx/TaC触媒の概略図支持体となるTaCにIr
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