米中、図らずも世界の脱炭素後押し かすむEUの排出量取引制度
米中主導の脱炭素競争がEUの排出量取引制度の存在感を低下させており、国際的なカーボンプライシングの枠組みが変化しつつあることを解説した記事。
専門家の視点
米国と中国がそれぞれ異なる手法で実質的に炭素価格を導入している現実が、EU排出量取引制度の存在感を相対的に低下させています。米国はインフレ抑制法による補助金や規制で、中国は全国排出権取引市場の拡大で、炭素に実質的な価格をつけています。ここにあるのは「実体の翻訳不足」という構造です。EUの制度は理論的整合性が高く国際的な参照点として機能してきましたが、政策実行の規模と速度では米中に抜かれつつあります。物語は依然としてEU主導ですが、実体は米中の政策規模が炭素価格の事実上の標準を形成しつつあります。隠れた前提は「炭素価格は制度(取引所)を通じて明示的に決められるもの」という発想です。しかし実際には補助金の条件や規制基準が炭素のコストを企業に課しており、形を変えた炭素価格が既に広がっています。次に見るべきは、EUが排出量取引制度の価格シグナルを維持するために、国境炭素調整措置を本当に執行できるかどうかです。米中のような補助金・規制型の炭素価格が標準になるなら、EUの市場型制度は制度間競争で不利な立場に立つ可能性があります。