制度・政策

【総研ブログ】森と無関係な企業はない――森林・林業基本計画から考える、自然資本経営の ...

2026-06-22
2026年6月5日に閣議決定された新たな森林・林業基本計画について解説し、企業の自然資本経営への影響を考察する記事。

専門家の視点

森林の価値を木材供給に限定せず、CN・NP・CEを支える自然資本の起点として捉え直す点は、森林政策の本質的な転換を示唆しています。実体として、森林の多面的機能や国産材サプライチェーン構築の動きは存在しますが、現状は「森と無関係な企業はない」という物語が先行し、具体的な実行レイヤーが企業のサステナビリティ担当者に委ねられている状態です。特に、建築物のLCCO2評価やSHK制度との連動といった評価基盤は整備途上であり、Scope3算定への組み込み方法は明確とは言えません。この構造は、物語先走り型といえます。ビジョンは壮大ですが、森林を「伐らなければよい」という単純化を避けつつ木材利用を拡大するには、時間軸と可逆性の観点が課題です。木材利用による炭素固定は短期で効果が現れにくく、一度伐採した森林の再生には数十年を要します。隠れた前提は、森林が常に健全な状態で維持されるという暗黙の想定です。実際には気候変動や病害虫のリスクが高まっており、森林自体のレジリエンスが問われています。

2026年6月5日(金)、新たな「森林・林業基本計画」が閣議決定されました。今回の森林・林業基本計画では、「百年つづく『森の国・木の街』へ」という副題が掲げられ、森林・林業・木材産業の好循環を生み出すことを目指し、環境に配慮した企業経営やウェルビーイングの観点から木材利用への期待が高まっていることを踏まえ、国産材サプライチェーンの構築と、多様で健全な森づくりを進めるものと説明しています。 森林・林業政策というと、住宅産業、建設業、製紙業、家具・内装業など、木材を原材料として扱う企業の話と受け止められがちです。 しかし、ここで見誤ってはいけないのは、森林の価値は木材供給だけではないという点です。森林は、カーボンニュートラル(CN)に向けたCO2吸収源であり、ネイチャーポジティブ(NP)を支える生物多様性の基盤であり、サーキュラーエコノミー(CE)を実現する再生可能資源の供給源でもあります。 さらに言えば、森林は水を育み、土壌を守り、空気を浄化し、人の心身を整え、地域経済を支える自然資本そのものです。林野庁も、森林の多面的機能として、生物多様性保全、地球環境保全、土砂災害防止・土壌保全、水源涵養、快適環境形成、保健・レクリエーション、文化、物質生産などを整理しています。 本稿では、今回の森林・林業基本計画を、単なる林業政策や木材利用政策としてではなく、CN・NP・CEを支える自然資本経営の観点から読み解きます。 森林を社会・産業インフラと呼ぶことはできます。しかし、より正確には、森林はインフラそのものというよりも、社会・産業インフラを成立させる土台です。道路、工場、住宅、都市、水道、エネルギー、物流、観光、金融。これらは一見すると森林から遠い存在に見えます。しかし、その多くは、安定した気候、水資源、災害リスクの低減、地域社会の維持、生物多様性、そして資源供給に依存しています。 森林は、これらの価値を生み出す自然資本です。統合報告の考え方では、企業価値は財務資本だけでなく、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本といった複数の資本の組み合わせによって生み出されます。IFRS財団も、統合報告の目的として、財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本という広範な資本への説明責任とスチュワードシップ、そして短中長期の価値創造に焦点を当てた統合思考を掲げています。 この視点に立つと、森林は単なる「環境保全の対象」ではありません。森林は、企業活動を支える複数の資本へ価値を転換する自然資本の起点です。 森林をCNの文脈で見ると、まず思い浮かぶのはCO2吸収源としての役割です。森林は成長過程でCO2を吸収し、炭素を植物体や土壌中に蓄えます。 ただし、森林を「伐らなければよい」と単純化することはできません。特に人工林については、適切に伐り、使い、植え、育てる循環がなければ、森林資源の持続的な利用も、林業の担い手の確保も難しくなります。 今回の基本計画では、温室効果ガス排出量算定・報告・公表(SHK)制度や建築物のLCCO2評価等を活用した国産材利用効果の見える化、非住宅・中高層建築物等における都市の木造化、大径材・広葉樹材を活用した内装材等の需要創出が掲げられています。 この木材利用による都市への炭素固定を実務に落とし込むには、建築物のLCCO2評価やSHK制度といった具体的な評価基盤との連動が不可欠です。 サステナビリティ担当者は、自社のオフィス開発やサプライチェーンにおける木材利用効果を、どのように非財務情報やScope3の算定ルールの中に位置づけていくか、実務的な先回りが求められます。 ここで重要なのは、木材利用を単なる需要拡大策として捉えないことです。木材を建築物や内装材、家具などとして長く使うことは、森林が吸収した炭素を都市や生活空間の中に移し、一定期間固定することでもあります。 つまり、CNの観点では、森林を山に閉じ込めたCO2吸収源として見るだけでは不十分です。森林で吸収した炭素を、木材利用を通じて都市側へ移し、長期にわたり活用する。この発想が、これからの木材利用政策と企業の脱炭素戦略をつなぐ重要な視点になります。 森林は、多様な植物、動物、菌類、微生物が関わり合う一つの生態系です。生物多様性が保たれることで、水循環、土壌保全、災害耐性、景観、文化、地域の暮らしが支えられます。林野庁は、森林の機能として、遺伝子保全、生物種保全、生態系保全に加え、河川生態系や沿岸生態系の保全も挙げています。 今回の基本計画でも、国民の安全・安心を根底から支える多様で健全な森林づくりとして、森林整備・治山対策の強化、延焼しにくい多様な林相への転換、病虫害・鳥獣害対策、クマ等の生息環境の保全・整備、生物多様性の保全を図る森

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