Vol.64 【グリーン鉄をめぐる国際攻防】EU炭素関税に挑む日本鉄鋼業と自動車大手の脱炭素戦略
EU炭素関税に対する日本鉄鋼業と自動車大手の脱炭素戦略について報じている
専門家の視点
EUの炭素国境調整措置(CBAM)が2026年に本格適用される中、日本鉄鋼業と自動車大手の対応が「物語先走り」の構造にあります。日本製鉄やJFEスチールは「グリーン鉄」の供給目標を掲げ、トヨタや日産は調達方針を表明しましたが、実際の商業生産は2030年以降が中心で、技術的に確立した水素還元製鉄の大規模プラントはまだ存在しません。ここでの実体は、既存の高炉からの段階的なCO2削減であり、抜本的な転換には10年単位の時間と巨額の投資が不可欠という物理制約です。 隠れた前提は「グリーン鉄の定義が国際的に統一される」という点です。実際には、EU基準と日本のカーボンクレジット活用の扱いが異なり、自動車大手が求める「低CO2鋼材」の基準があいまいなままです。時間軸で見ると、CBAMの導入は2026年ですが、日本鉄鋼業の本格的なグリーン鉄輸出は2030年代後半にずれ込む可能性が高く、このギャップが短期的な競争力低下リスクを生みます。 次の観測点は、自動車サプライチェーン全体で鉄のCO2排出量をどう算定し、誰が検証と補償を担うかという実行レイヤーの欠落です。