ISSB議長の「ESGの時代は終わった」発言をどう受け止めるべきか
専門家の視点
結論から言えば、この記事は「ESGという言葉の終焉」というセンセーショナルなフレームで読者を引きつけつつ、実質的には「サステナビリティ情報の重要性が増している」という従来の主張を再確認する内容です。Substance(実体)としては、ISSB基準の採用国が30から40以上に増えたという客観的事実が示されていますが、Narrative(物語)では「ESGの終わり」という逆風をあえて冒頭に置くことで、逆説的に「中身は生きている」と語り、読者の注目を集めています。Expectation(期待)の観点では、読者はESG全体の後退を予想しますが、記事は基準の普及や無形資産の重要性を強調し、その期待を覆そうとしています。ただし、ここには「比較基準の恣意性」が見られ、30から40という増加は強調されますが、未採用の国や地域の規模には触れられていません。また「省略された利害関係者」として、筆者はトーマツのパートナーであり、自社のサステナビリティ保証業務の需要喚起という利益が内在します。
IFRS財団のエマニュエル・ファベール・ISSB議長は2026年5月末、ドイツ・フランクフルトのカンファレンスで講演し、「最も多く耳にするのは『ESGの終わり』という言葉だ」と冒頭で切り出しました。ファベール議長は、「ESGという言葉の時代は終わり、いま語られるのは地政学リスクだ」と続けました。この発言をどう受け止めるべきでしょうか。(トーマツ 非財務・サステナビリティ保証統括部パートナー=小口誠司) ファベール議長は確かに、「ESGの終わり」について触れましたが、彼の講演はそこで終わりません。 世界の分断が進み、原材料や物流、市場へのアクセスが断たれるリスクが高まる時代。だからこそ、自社の事業がどこで何に依存し、どんなリスクと機会を抱えているかを見渡すサステナビリティ情報は、「以前より一層重要になっている」というのです。 しかも今は、企業の価値の多くがブランドや技術、人材といった目に見えない無形資産で測られる時代です。財務諸表の数字だけでは、会社の実態は見えません。 だからこそ、それをサステナビリティ情報で補う意味が増している、そういう整理です。実際、ISSB基準を法律に取り入れる国は、1年前の30から今や40以上へと増え、毎月広がっています。 つまり、ESGという言葉そのものは勢いを失いつつある。けれども、その言葉が本来やろうとしていたことは、なくなるどころか、ますます重要になっています。逆風が吹いているのはESGという言葉であって、中身ではないのです。 学術の世界でも実務の現場でも、私はそれを実感しています。では、そのESGの中身を大事にできている会社と、そうでない会社は、何が違うのか。同じ取り組みをしても、なぜ企業価値向上という成果に差が出るのか。この問いを考えるヒントを、最近の議論からご紹介します。 有限責任監査法人トーマツ/非財務・サステナビリティ保証統括部/パートナー/公認会計士/サステナビリティ情報審査人、群馬大学客員教授/サステナビリティ保証研究担当。サステナビリティ領域のアドバイザリー業務に従事している。*サステナビリティ情報について定期的にlinked inで発信しています。よろしければつながり申請お待ちしております。詳しくはこちら
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