水素に賭けた日本、なぜ遅れを取ったのか?
専門家の視点
日本の水素戦略は、世界初の国家戦略策定や燃料電池車・特許での先行という「優位性の物語」を長く語ってきましたが、実体としての産業化は目標と現実の間に深刻なギャップを抱えています。FCV累計販売台数が政府目標の2.5%未満、水素ステーションも計画の半分に満たないなど、目的(水素社会の実現)と手段(FCV・家庭用燃料電池への集中投資)が倒置し、普及そのものが目的化した形跡があります。記事は「日本の遅れ」をコスト高やインフラ不足、政府支援の不十分さで説明しますが、中国がグリーン水素と大型プロジェクトで先行する構図を強調するフレーミングが見られます。一方で、日本がグレー水素に長期依存した判断や、電化が難しい分野よりFCVを優先した選択の妥当性、そして15兆円投資で誰が受益者かという視点は省略されています。比較基準として中国の「高速軌道」を提示する一方、日本の地理的制約やエネルギーミックスの違いが軽視されている点は注意が必要です。日本企業・GX人材は、技術先行の物語に安住せず、コスト競争力と実用化のスピードを最重視した戦略転換が求められています。
日本は世界で最も早く水素エネルギーに力を入れた国の一つだ。日本政府が1974年に開始した「サンシャイン計画」では、すでに水素が将来の重要なエネルギーとして位置づけられていた。日本は2017年に世界で初めて国レベルの水素戦略を策定した。その後、燃料電池自動車(FCV)や家庭用燃料電池、関連特許の数で長らく世界をリードしてきた。しかし、産業化の進展は当初の期待を大きく下回っている。2021年以降、日本のFCVの新規販売台数は累計5千台にも満たず、政府が掲げた「2025年までに20万台」という目標には遠く及ばない。 日本政府は近年、グリーントランスフォーメーション(GX)を通じて、エネルギー安全保障、産業競争力の強化、脱炭素の三つの目標を同時に達成しようとしており、投資拡大を続けている。「水素基本戦略」によれば、政府と民間は今後15年間で約15兆円を水素産業の発展に投じる計画だ。しかし、壮大な戦略的ビジョンと現実の間には大きなギャップがある。 日本全国の水素ステーションはわずか142カ所で、2025年度末までに320カ所とする当初目標の半分にも届かず、一部の県には水素ステーションが一つも整備されていない。一方、深圳の高工産研水素電産業研究所が発表した「中国水素ステーションデータベース」によると、4月までに中国で建設された水素ステーションは日本の4倍の557カ所に上る。中国の燃料電池バスやトラックはすでにマレーシアやオーストラリアなどへの輸出が始まっている。中国の2025年のFCV販売台数は前年比52.9%増の8千台に達した。 日本の水素業界は焦燥し、「遅れ」の現状を高止まりする開発コストや物流の難しさ、そして政府の支援不足のせいにしている。「Nikkei Asia」は、日本では主に天然ガスなどの化石燃料から製造されるグレー水素が使われており、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して作るグリーン水素より安価な場合が多いが、それでも化石燃料よりは割高だと分析する。日本の水素バリューチェーン推進協議会の福島洋事務局長も、普及を阻む最大の要因は水素のコストで、現状では化石燃料の約10倍と強調する。また、日本の道路を走るFCVの数が極めて少ないため、多くの水素ステーションが採算に合わず、建設費を回収できない状況にある。さらに、日本では水素の輸送が難しいことも課題となっている。 「Nikkei Asia」は、日本政府の産業支援の遅れとは対照的に、中国の政策支援はすでに「高速軌道」に乗っていると指摘。中国の工業・情報化部などの3部門は3月に、全国の水素自動車の保有台数を、2025年末時点の約4万台から2030年までに10万台以上に引き上げる目標を発表した。 世界的な戦略経営コンサルティング会社ローランド・ベルガーが最近発表したリポートでは、より積極的で柔軟な金融支援を背景に、中国はすでに水素エネルギー産業の発展で世界各国をリードしていると指摘。2020年から2025年にかけて、中国石化(シノペック)の庫車プロジェクトや遠景(エンビジョン)の赤峰プロジェクトなど大型事業が相次いで稼働し、中国は超大規模水素エネルギー産業技術を初めて把握した国となった。 コンサルティング会社ランタオ・グループのエネルギーアナリスト、フィッシュマン氏は、「中国は電池と太陽光発電でリードしている。グリーン水素、炭素回収、産業の電化は現在、新たな発展サイクルを迎えている」と述べた。中国の「第十五次五カ年計画」(2026~30年)の要綱では、新興産業と未来産業の育成・拡大が明確に打ち出されており、水素は重点的に配置される未来産業の一つに位置づけられている。 その一方で日本の水素産業は、これまでの政府の支援規模に依然として不満を抱えている。水素バリューチェーン推進協議会は今年5月に高市早苗首相に対し、水素を今後の経済成長戦略に正式に組み込むよう働きかけた。 さらに日本国内では、水素の開発ルートをめぐる議論も起きている。自然エネルギー財団が2022年に発表したリポートでは、過去十数年にわたる日本の水素政策には三つの大きな問題があると指摘。第一に、鉄鋼、化学、海運といった電化が難しい業界よりも、FCVや家庭用燃料電池といった用途を優先してきたこと。第二に、グレー水素やブルー水素のルートに長期間依存してきたこと。第三に、グリーン水素の製造と電解槽産業の育成が遅れていることだ。同財団は、日本はグリーン水素製造と電解槽の産業化において、すでに中国や欧州に追い抜かれつつあると見ている。 厦門大学中国エネルギー政策研究院の林伯強院長は、日本は資源に乏しく、グレー水素やブルー水素にはエネルギー・産業面の支えが弱く、グリーン水素はコストが高すぎて消費者が負担しきれないため、これは日本にとっ
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