人材・キャリア

サステナビリティ部門は「第二の経営企画部」になれるか

2026-06-17
一部の大企業でサステナビリティ開示が義務化され、開示業務の負担増が課題となる中、サステナビリティ部門が「第二の経営企画部」として機能する可能性を考察している。

専門家の視点

サステナビリティ開示の負担増は現実ですが、その背後にある「経営の前提条件そのものの変化」という実体が軽視されがちです。開示基準の拡大は手段であり、目的は事業継続の条件を可視化することです。しかし現場は「開示項目を埋める仕事」に終始しがちで、ここに物語(第二の経営企画部としての役割)と実体(負担感と業務のミスマッチ)のズレがあります。 この構造の核心は、時間軸と実行レイヤーの非対称性です。SSBJ基準の段階的義務化は2027年から始まりますが、変化している経営環境は今まさに進行中です。開示が追いつく前に、事業リスクが顕在化する可能性があります。また、誰がこの変化を経営戦略に翻訳するのかという実行レイヤーが欠落しています。サステナビリティ部門に期待される役割は大きいものの、人材や権限が伴っていません。 さらに、記事が当然とする「開示の高度化=企業価値向上」という前提を問い直します。開示が厳格化されるほど、短期業績へのプレッシャーと長期リスクへの備えが両立しにくくなる企業も存在します。すべての企業にとって開示負荷の増大が純粋なプラスとは限らず、選択と集中の判断が不可欠です。

今年から、一部の大企業でサステナ開示も義務化され、開示業務の負担増に嘆く上場企業もある。開示要請の背景には、気候変動や自然環境、人権問題など、企業経営の前提条件そのものが変わってきていることがあり、その可視化が求められている。企業のサステナビリティ部門は、いわば事業継続の条件に向き合っているのであり、その意味で「第二の経営企画部」としての役割を担っている。(サステナブル経営アドバイザー・足立直樹) 6月は株主総会の季節です。3月決算の上場企業にとっては、決算発表、株主総会招集通知、有価証券報告書、統合報告書の作成が次々と続く、年間でもっとも慌ただしい時期の一つでしょう。 とりわけサステナビリティ担当者にとって、4月から5月にかけては相当な繁忙期だったはずです。気候変動、生物多様性、人権、サプライチェーン、人的資本、ガバナンスなど、開示すべき項目は増え続け、その一つひとつについて社内のデータを集め、関係部署と調整し、表現を確認しなければなりません。 なかでも関心を集めているのがISSB(国際サステナビリティ基準審議会)、そしてその日本版のSSBJ基準です。SSBJ基準は2025年3月に最終化・公表され、2027年3月期からは時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業を皮切りに、2028年3月期には1兆円以上、2029年3月期には5000億円以上へと、有価証券報告書での開示義務が段階的に広がっていく予定です。サステナビリティ情報開示を国際的に標準化しようという流れは、もはや一時的なものではありません。より体系的で、比較可能で、投資家が意思決定に使える開示が、日本企業にも求められていくことは間違いありません。開示の高度化そのものは、もちろん必要です。投資家が企業の中長期的な価値を見極めるうえで、財務情報だけでなく、気候変動や自然資本、人権、人的資本に関する情報が欠かせなくなっているからです。実際、こうしたテーマが投資家との対話の論点になるケースも増えています。しかしその一方で、現場の担当者が疲弊している現実もあります。新しい基準が出るたびに、「また開示項目が増えるのか」「また新しいデータを集めなければならないのか」と感じる方は少なくないでしょう。私も企業の方々から、「情報開示の負担が増えていて……」という声をよくお聞きします。 たしかに現状はその通りです。けれども、ここで少し視点を変えてみる必要があると思います。私が本当に大きな変化だと思うのは、ISSBやSSBJそのものではありません。むしろ、その背景で起きている世界の変化です。この30年ほど、多くの企業はある前提の上で成長してきました。世界中から安価な資源を調達できる。必要な部品や製品は、最も効率のよい地域で生産できる。世界中に自由に販売できる。気候はおおむね安定している。自然はほぼ自由に使える。人口は増え、市場は拡大していく。しかし今、その前提が一つずつ揺らぎ始めています。AIの急速な進化は、仕事の進め方だけでなく、企業が提供する価値そのものを変えはじめています。地政学的な緊張の高まりは、自由貿易やグローバルサプライチェーンという、これまで当然視されてきた前提を揺さぶっています。世界中からもっとも安価な資源を調達し、効率よく大量に生産し、世界市場で売るというモデルも、以前ほど盤石ではありません。さらに、気候変動や生物多様性の喪失は、もはや「環境問題」という枠には収まりません。それは企業経営そのものの制約条件になりつつあります。水、森林、土壌、海洋、生態系サービス。これらの自然資本に企業活動がどれほど依存しているかを思えば、その劣化が事業リスクへ直結することは明らかです。つまり、SSBJ対応やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)対応が求められているから重要なのではありません。企業経営の前提条件そのものが変わっているからこそ、それを見える形にする開示が求められているのです。ここを取り違えると、サステナビリティ部門の仕事は、どこまでも「開示項目を埋める仕事」になってしまいます。 最近では、開示の実務にAIを活用しようという動きも急速に広がっています。各国の規制動向を調べる。膨大な社内データを整理する。過去の開示文書との整合性を確認する。ドラフトを作成する。こうした作業の多くは、今後AIによって相当程度まで効率化されていくはずです。実際、そうしたサービスを提供し始めたサービスプロバイダーも出てきています。もちろん、すべてをAIに委ねればよいという話ではありません。誤った情報を出さないための確認、重要性の判断、経営との整合性、そしてステークホルダーへの説明責任。これらは最終的に人間が担うほかありません。それでも、開示実務のかなりの部分がAIに支えられるようになれば、人間の役割は大

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