ナフサ不足の切り札?「脱石油プラスチック」実現するのか | 環境エネルギー最前線 - 毎日新聞
専門家の視点
記事はCO2から直接プラスチック原料を製造する技術を「夢の切り札」とフレーミングしていますが、実体は限定的です。適用可能なのはポリカーボネートやポリウレタンなどの機能性化学品に留まり、汎用プラスチック全体の代替にはなりません。また、政府のグリーンイノベーション基金事業として旭化成の2002年の商用化事例を挙げつつも、大半は実証段階であり、東ソーの技術もベンチレベルに過ぎません。ここには「過去の事例を現在の成果として語る時制の操作」と、「CO2から直接作れる」という部分的成功を全体の脱石油に拡大解釈する「規模と効果のギャップ」が潜んでいます。さらに、廃プラ原料循環の課題(分別コスト、リサイクル率4%)にも触れながら、それらの根本的障害を省略しているため、読者は技術の実用化時期やコスト面での現実を過大視しやすい構造です。ナフサ不足という短期的課題と脱炭素という長期的目標が、技術の非現実的な期待で結びつけられています。日本企業やGX人材は、限定的な技術領域を精査し、スケール化と経済性の現実を見極めた上で投資判断を行う必要があります。
中東情勢の影響で、ナフサ由来のインク調達が不安定だとして、包装が白黒になった菓子も並ぶスーパーの商品棚。ナフサの供給不安は続く=東京都内で2026年6月2日、和田大典撮影 日本の中東依存が残した教訓(8) 日本で合成燃料のeナフサはなじみが薄いが、脱石油を目指す官民の技術開発が2021年から始まっている。しかも水素を必要とせず、二酸化炭素(CO2)からウレタンなど石油代替の素材を作るのだという。そんな夢のような技術は本当に可能なのか。実現すれば、脱炭素と脱石油が進むのではないか。 政府は「グリーンイノベーション基金事業」の一環として、「CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」を民間企業と進めている。まさに脱炭素と脱石油に向けた取り組みだ。 政府が官民で技術開発を急ぐのは「自動車の電動化でガソリンの使用量は減っていく。ガソリンが減少するとナフサの生産量も減ることになる。ナフサを原料とする従来の製造方法だけだと、プラスチック原料の確保が難しくなる」という事情がある。 「CO2等を用いたプラスチック原料製造技術」には、いくつか方法がある。廃プラや廃ゴムを化学的にリサイクルしてプラスチック原料を作る「原料循環」のほか、水やCO2からプラスチック原料を作る「原料転換」などだ。 前者は前回の本欄で、オーストリアのウィーンに本社を置く石油化学メーカー「Borouge International(ボルージュ・インターナショナル)」社も、有力な石油代替手段の筆頭に挙げていた。 廃プラや廃ゴムを再びプラスチック原料として再利用するには、ガス化して基礎化学品に戻す必要がある。しかし、「分別が必要で、分別されていない混合廃プラを分解し、基礎化学品に戻す技術を確立する必要がある」(経済産業省イノベーション・環境局)という。このため廃プラや廃ゴムの再利用(ケミカルリサイクル)は一部で実用化しているが、全体の4%程度にとどまっている。 後者の原料転換は、合成燃料と同様、水を再生可能エネルギーで電気分解して取り出した水素(グリーン水素)とCO2からプラスチックなどの原料(eナフサ)を作る技術かと思ったが、経産省や石油化学メーカーに確認すると、まったく違っていた。 水素を使わず、CO2から直接、プラスチックなどの原料を作るのだという。夢の技術のように聞こえるが、経産省やメーカーによると「ポリカーボネートやポリウレタンなどの機能性化学品は水素を必要とせず、CO2から合成が可能」という。 ポリカーボネートはスマートフォンや家電の骨格(フレームやボティー)のほか、建材などに用いる。ポリウレタンはスポンジやクッションなどウレタン製品に幅広く使用する素材だ。 このため経産省は「現在、プラスチックの多くはナフサを原料に作られている。CO2からプラスチック原料を製造する技術はCO2大幅削減の切り札で、脱石油の観点からも極めて重要だ」(製造産業局)と力を込める。同局によると、CO2を原料としたポリカーボネート製造技術は旭化成が02年に世界に先駆けて台湾で商用化したほか、米国とドイツの企業がポリウレタン原料を商用化するなどしたが、多くは実証中という。 政府のグリーンイノベーション基金を活用する先端事業としては、大手化学メーカーの東ソーが幹事となり、三菱ガス化学と共同で技術開発を進めている。 現在、東ソーはホスゲンという物質(炭素と酸素と塩素の化合物)を使ってポリウレタンの原料を製造している。ホスゲンの原料はナフサなどだ。 東ソーは、このホスゲンを使わず、CO2を原料にポリウレタンの原料を製造することを目指している。 開発はどこまで進んでいるのか。東ソーに尋ねると、「基礎研究(ラボ)レベルでは既に成功し、25年末に次のベンチレベル(卓上試作段階)に進んでいる。予定通り… 1964年生まれ。上智大ドイツ文学科卒。毎日新聞経済部で財務、経済産業、国土交通など中央官庁や日銀、金融業界、財界などを幅広く取材。共著に「破綻 北海道が凍てついた日々」(毎日新聞社)、「日本の技術は世界一」(新潮文庫)など。財政・金融のほか、原発や再生可能エネルギーなど環境エネルギー政策がライフワーク。19年5月から経済プレミア編集部。
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