東レ・大矢光雄社長「2050年へ経営資源をフル活用」 | 日経ESG
専門家の視点
東レのインタビューは、収益性改善とGX投資の両立を語っていますが、炭素繊維のような大型設備投資の一段落を「環境・DXへのシフト」とフレーミングする点に注意が必要です。設備投資全体は抑制されるため、脱炭素技術への資金配分が規模として十分かどうかは不透明です。また、ユニクロとのパートナーシップでは「ビヨンド天然繊維」を掲げながら、サプライチェーン全体の排出削減や素材のライフサイクル評価には触れておらず、ESGの環境側面で具体的なKPIが示されていません。構造改革「Darwinプロジェクト」で低収益事業を整理したキャッシュを投資に回すという目的と手段の連関は明確ですが、研究開発費は前期並みに据え置かれており、イノベーションの加速という物語と実態に乖離があります。海外投資家の反応として「好反応」と述べる一方、ESG経営の効果は機関投資家向け情報発信に留まっている可能性があります。日本企業・GX人材にとっては、収益性と脱炭素投資のバランスを財務指標で明確に示し、具体的な環境便益の定量化が求められることを示唆しています。
ユニクロと第5期戦略的パートナーシップを締結しました。どんな可能性を見いだしていますか。 大矢 ユニクロとは5年単位でのパートナーシップ契約で機能性素材を開発してきました。第4期となる前期では取引額をKPI(重要業績評価指標)に掲げ、5年間で約1兆3000億円の取引実績となりました。26年から始まった第5期ではグローバルに「ライフウェア」の革新を目指します。 従来は日本、米国、欧州と地域ごとに体型や好みに合わせたウェアを提供してきましたが、それを超えた普遍的なライフウェアを開発し、マーケットに提案します。 普遍的なライフウェアはどんな概念で作るのですか。 大矢 1つの例が24年に販売したレディース向けの「極暖ヒートテックカシミヤブレンド」です。アクリルやレーヨンとブレンドすることでカシミヤを進化させました。天然繊維を好む欧米の消費者に対し、我々の技術で“ビヨンド天然繊維”の価値ある新商品を生み出したのです。これにより、欧米でのヒートテックの売り上げは飛躍的に伸びました。 グローバルに普遍的なライフウェアを実現するには、研究開発を深め、売れるものを時間軸に沿ってきっちり生産するなど、真のものづくりの力が必要です。グローバルに生産拠点を拡充してきたユニクロは高い参入障壁を築いています。戦略的パートナーシップの下、我々もしっかりと役割を果たします。 収益改善のための「Darwinプロジェクト」で低成長・低収益事業の撤退・縮小など構造改革を実行してきました。海外投資家からはどんな反応がありますか。 大矢 当社は「極限追求」「超継続」など粘り強い取り組みを強みとしています。一方、資産効率性や収益性の視点が十分でなかった面があります。社長に就任以来、そのメリハリをつけようと構造改革を進め、投下資本に対し十分な利益を出していない事業の整理を進めました。海外投資家はこうした方針を当然のことと捉えていると思います。ディスクローズが明確で、スピード感を持ってやろうとしていることが伝わると好反応を得ています。中期経営課題「IGNITION 2028」にも高い評価をいただいています。 IGNITION 2028では設備投資に4000億~5000億円、研究開発費に約2500億円を投じる予定です。 大矢 構造改革を加速し、捻出したキャッシュを適切に分配します。研究開発投資は前中経と同レベルで行います。設備投資については、前中経で実施した炭素繊維の大型設備投資が一段落し、成長領域の半導体、AIデータセンターや環境・DXへの投資にシフトします。炭素繊維のような大きな設備投資ではないので全体としてはやや抑制する形です。 情報発信、情報収集、調査分析の3つを柱に、機関投資家との対話の機会を増やし、気候変動、プラスチック問題、ブランド調査などESG経営に直結する情報を提供。貴社のESG経営を強力にサポートします。新規入会、活動内容はこちら。 2026年7月号世界はネイチャーポジティブへ 「自然」市場で競争を制する 日経ESG新刊書籍「経営者が語る 成長の源泉 ESG経営」 Copyright Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.
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