月刊 経団連 巻頭言 エネルギー戦略の実装が育む、技術の進化と人の成長
専門家の視点
本記事は、経団連副議長であり出光興産会長が、エネルギー安全保障とGXの両立を主張する巻頭言です。実体としては、数値目標や具体的投資計画には触れず、既存燃料の継続利用を「現実的な時間軸」とフレーミングし、自社事業の正当化に用いています。語り口は「わが国」「技術者の成長」といった抽象表現が多く、主体が曖昧です。期待される読者(経団連会員企業や政策関係者)にとっては、長期的ビジョンや具体策が示されず、現状追認に過ぎない可能性があります。特に「液体・固体燃料の低炭素化」は、化石燃料事業の継続を暗に擁護するナラティブであり、再生可能エネルギーへの迅速なシフトを期待する立場との乖離が大きいです。また、技術者育成を謳いながら、そのための投資規模や業界横断的な協業には言及がなく、主語の曖昧化と時制の操作(将来の成長を現在の成果として語る)が確認できます。省略された利害関係者は、新興エネルギー企業や市民負担であり、既存インフラの維持コストが誰に転嫁されるかは不明です。日本企業のGX人材は、こうした既得権益の論理を批判的に読み解き、脱炭素への具体的な行動計画と投資を自社で創出する視点が求められます。
木藤 俊一 (きとう しゅんいち) 経団連審議員会副議長/出光興産会長 イランを中心とした中東情勢の緊張をはじめ、世界的に地政学リスクが高まり、各国の政策も不安定さを増している。その結果、わが国のエネルギーを取り巻く環境は、かつてない不確実性の中に置かれている。このような状況で求められるのは、わが国のエネルギー安全保障と安定供給を確実に維持しながら、同時に2050年カーボンニュートラル社会の実現を見据えてグリーン・トランスフォーメーション(GX)を着実に推進するという、高度な両立の実現である。 そのためにわが国が今後進むべき道は、「エネルギートランジション」と、「エネルギーアディション」を組み合わせた、多層的なアプローチである。既存エネルギーの安定供給を確保しつつ、再生可能エネルギーや次世代燃料といった新たな供給力を着実に積み上げていくことが求められる。とりわけ、液体・固体燃料が持つ高いエネルギー密度や可搬性・貯蔵性は、有事の際に代え難い価値を持つため、これらを低炭素化・脱炭素化しながら活用していくという、現実的な時間軸を描くことが重要になる。 短期的な国際価格や政策動向に左右されることなく、長期的視点で捉えれば、GXの推進はわが国のエネルギー自給率向上につながる。日本が強みをもつ高効率製造技術、化学・材料、燃焼・安全工学などといった領域でGXを深化させることは、優れた技術者の育成を通じて大きな付加価値を生む。技術者が現場で挑戦し、失敗から学んで進化を繰り返す経験こそが、人財育成の核をなすことになる。こうした技術と人の成長の積み重ねが、日本のエネルギー産業のみならず、製造業全体の競争力を高め、国際社会における存在感を再び強固なものへと押し上げる原動力になるだろう。 不確実性の時代だからこそ、レジリエントな長期ビジョンのもとでエネルギー戦略を構築し、社会全体の持続的繁栄につながる確かな一歩を積み重ねていきたい。
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