中古船を活用、短工期・低炭素で攻める | 日経ESG
専門家の視点
商船三井による中古船を活用した浮体式データセンター構想は、土地不足や電力問題を抱える米国市場を狙った現実的な対応策ですが、その語られ方には注意が必要です。記事では「開発期間を最大3年短縮」「CO2排出量を約2割削減」と強調されていますが、比較基準が明示されておらず、「陸上建設」の定義次第で数値は大きく変わり得ます。また、実証段階であるにもかかわらず「短工期・低炭素」が既成事実のように扱われており、時制の操作による過度な期待形成のリスクがあります。さらに、中古船の改造コストや退役船舶の供給が安定的に続くか、係留先の港湾インフラや許認可の実務は省略されています。海水冷却の環境影響評価も欠けており、省略された利害関係者として沿岸地域の生態系や住民がいます。日本企業が既存アセットをGX転換する試みは評価できるものの、スケールと現実性の検証なしに「優位性」を語るだけでは、投資判断を誤らせる可能性があることを認識すべきです。
高木 邦子(日経ESG シニアエディター) 海運事業で蓄積した資本を活用し、米国のデータセンター市場に参入する。開発期間を大幅に短縮し、CO2排出量も抑えることで、旺盛なAI需要を取り込む。 商船三井は、日立製作所、日立システムズと共同で、中古船を改造した浮体式データセンター(DC)の開発に着手する。まずは1万t級の船をデータセンターに改造し、実証を進める。 人工知能(AI)の利用拡大に伴い、世界的にDCの需要が高まっている。特に北米の大都市圏では建設用地の確保が難しく、電力供給や冷却用水の整備が追い付かない状況だ。地域によっては、計画から運用開始まで10年近くも待たざるを得ない事態になっている。 商船三井は2023年に米国西海岸の都市パロ・アルトに拠点を設け、退役した中古船をデータセンターとして活用する事業の市場調査を開始した。 同社は世界で約900隻の船を運行し、そのうち約400隻を保有する。稼働年数は20~25年なので毎年15~20隻が退役する計算だ。その一部を活用することで、陸上で新たにDCを建設するよりもコストや施工期間、脱炭素化の面で有利に事業を展開できると考えた。 都市近郊の港湾にDCを係留すれば、広大な建設用地を確保する必要はなく、通信遅延(レイテンシー)も抑えられる。冷却用に海水を利用できるため水不足の心配もない。 最大の利点は、開発期間を大幅に短縮できることだ。土地やインフラの取得・整備に要する時間が不要なことに加え、中古船の改造期間を短縮する策を講じる。係留する港湾ではなく、造船所で船体の構造を熟知した作業者が改造を担う。サーバーをモジュール構成にし、拡張性を高めると同時に実装作業を効率化する。DCの規模にもよるが、陸地に建設するよりも最大で3年短縮できるとみる。 実際に開発期間の短縮は、米国のDC利用企業の関心を引いたようだ。商船三井執行役員の鹿志村高士氏は、「浮体式DC事業の開発を発表した直後からパロ・アルトの拠点には、いつから稼働できるのかという問い合わせが相次いだ。コストよりも開発期間への関心が高いことに驚く」と話す。 工期の短縮や海水による冷却は、脱炭素にも有効だ。浮体式は陸上建屋のDCよりも建設から運用に至るCO2の総排出量を約2割削減できるとみている。 商船三井は、コンテナ船やドライバルク(ばら積み)船などによる海運事業が売上高の6割を占めるが、市況の影響を受けやすい。このため安定して収益を確保できる成長分野の事業開発に取り組んでいる。今後、30年度までの5年間の事業投資総額2兆3400億円のうち、4割に当たる約1兆円をエネルギー関連事業に投資する計画だ。 2026年6月号循環経済、脱炭素、人的資本、IR、コンプライアンス AIが起こすESG革命 日経ESG新刊書籍「経営者が語る 成長の源泉 ESG経営」 Copyright Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.
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