【連載】愛知学院大尋木准教授の東三河と国際法〈13〉 企業と市民の脱炭素力①
専門家の視点
気候変動の被害実態を具体的な数値で示す一方、対策の出発点を「排出量把握」と限定し、中小企業や市民の意識に問題があると指摘していますが、これは「主語の曖昧化」と「目的と手段の倒置」のズレを含んでいます。企業や市民の責任を広く語ることで具体的なアクションの主体が不明瞭になり、本来の目的である排出削減よりも「把握する」という手段が前面に出ています。また、「専門用語が難解」という理由で対策が進まないとしていますが、平易な解説だけでは実際の行動変容には繋がりにくく、読者の期待する具体的な解決策や成功事例の提示が不足しています。記事は危機感を強調するフレーミングですが、東三河プロジェクトの効果や企業の具体的な負担・利益については触れられておらず、「省略された利害関係者」の観点から、誰にどのような便益があるのかが不明確です。日本企業やGX人材は、こうした現状認識にとどまらず、自社や地域における具体的な排出削減策とその経済的メリットを可視化する責任があると言えるでしょう。
地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した(グテーレス国連事務総長)。平成後期は数百人だった熱中症による死者数は、令和に入ると1桁上がり、令和6年には2000人を超えた。1500人前後で推移する火災の死者数と比べても、その多さが際立つ。今年4月には、40度以上を指す気象用語として、「酷暑日」が採用された。 気候変動の被害は、暑さにとどまらない。ゲリラ豪雨や線状降水帯という用語を耳にする回数が増え、台風や洪水の激甚災害も常態化している。2024年8月に蒲郡市で発生した土砂災害も記憶に新しい。農作物や水産資源にも変化が表れ(連載第10回アサリとカキの好循環参照)、伊勢が主産地だったイセエビ漁は、東北地方で隠れたブームとなっている。 海面上昇により、東三河の沿海部にある工場や農地も、浸水するおそれがある。世界中で発生するこうした被害は、物流の不安定化をもたらし、経済安全保障上も問題となっている。 こうした被害に鑑みると、気温上昇への対応は、企業・市民を問わず喫緊の課題といえる。しかし実際には、中小企業や市民の対策意識は、必ずしも高いとはいえない。その理由は、まず気候変動の影響が、徐々にかつ断続的に現れるため、危機として実感しにくい点にある。 さらに「地球沸騰化」や「酷暑日」とは対照的に、難解な専門用語が多いことも理由と考えられる。「FSBのTCFDが、ISSBのIFRS S2に代替された」と聞いて、理解できる人は少ない。専門家の伝え方にも、環境対策が進まない原因がある。こうした状況を踏まえ、本連載ではできる限り平易な言葉で解説していきたい。 気候変動の緩和(排出削減)と適応(被害対策)のため、東三河地方では、豊川流域一体型のプロジェクトが行政主導で展開されている(連載第12回豊川流域一体型の脱炭素計画)。一方で、温室効果ガスは企業活動から多く排出されており、企業にも大きな社会的責任がある。 代表的な温室効果ガスは、燃焼により発生する二酸化炭素である。製造業のボイラーや運送業のガソリンの使用等は、二酸化炭素を「直接排出」し、その他の企業も火力発電等の電力使用により「間接排出」している。まずは、この直接・間接の排出量を把握することが、気候変動対策の出発点となる=表。 © 東愛知新聞社 All rights reserved.
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