再エネ・技術

エンジン車やジェット機の救世主?「人工の原油」いつ実現 | 環境エネルギー最前線 | 川口雅浩

2026-05-24
再生可能エネルギー由来の合成燃料e-fuelの実現可能性と実用化時期を解説する記事

専門家の視点

日本企業がe-fuel開発で直面したのは、技術の実現可能性と事業の採算性の間に横たわる深い溝です。記事は「官民連携で順調」という政府のナラティブと、ENEOSが大規模生産計画を無期延期した現実とのズレを浮き彫りにしています。実証プラントで日量1バレルの生産ができても、300バレルへのスケールアップには採算の壁があり、企業はより経済合理性の高いバイオマス原料への戦略転換を選択しました。ここでは、目的(脱炭素)と手段(e-fuel大量生産)が倒置し、政府の支援策が実質的な事業化判断に耐えなかったことが示唆されます。また、「商用規模で横並び」という政府の楽観的な評価に対し、現実は技術実証と事業化のギャップを埋める具体策が不在であることも明らかです。日本企業やGX人材は、技術開発の成果を過度に楽観視せず、コスト構造と事業リスクを常に冷静に見極める視点が不可欠であり、その上で現実的なロードマップを描くことが求められます。

ENEOS(エネオス)が合成燃料を提供し、大阪・関西万博で日本初の営業運転を行ったシャトルバス。「未来の燃料で走行中」と大書している=大阪市北区で2025年3月27日、妹尾直道撮影 日本の中東依存が残した教訓(6) 石油代替の次世代燃料と期待される「e-fuel(イーフュエル)」の開発は米国のスタートアップが先行するが、政府は「商用規模の研究開発において日本は海外と横並びの状況にある。世界に先駆け製造技術を確立すべきだ」という。日本で官民の開発はどこまで進んでいるのか。e-fuelやバイオ燃料で日本が世界をリードする時代は来るのか。 「人工の原油」と呼ばれるe-fuelは合成燃料だ。再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を取り出し、二酸化炭素(CO2)と合成して作る。CO2は当面、火力発電所や工場などから出たものを回収して用いるが、将来的には大気中から直接取り出すことを想定している。 e-fuelは液体で、ガソリンや軽油、ジェット燃料などの代替となる。既存の自動車や航空機のエンジン(内燃機関)に使えるほか、ガソリンスタンドや空港の給油システムなどの既存インフラをそのまま使えるメリットがある。 前回の本欄で紹介した通り、日本でもe-fuelを試験的に製造することは可能だ。しかし、水の電気分解で水素を取り出すには電力が必要となる。そのためには余剰電力や安価な再エネを用いるしかない。商用化に向けた課題は「大量生産に向けた製造技術の確立と製造コスト」(経済産業省資源エネルギー庁)という。 政府は「民間企業が単独で(e-fuelの開発を)実施することは困難なことから、国として積極的に取り組む必要がある」と、官民連携で開発を進めている。 官民連携のトップランナーは石油元売り最大手のENEOS(エネオス)だ。政府の「グリーンイノベーション基金」の支援を受け、e-fuelを製造する日本初の実証プラントを2024年6月、横浜市内に完成させた。 1日当たり、わずか1バレル(約159リットル)の生産だが、再エネの電力で水を電気分解して水素を取り出す。CO2は工場の排気のほか、空気中からも直接回収する。25年の大阪・関西万博では「万博シャトルバス」にe-fuelを提供し、日本初の営業運転を行った。 官民のe-fuel開発は順調に進んでいるように見えたが、25年10月、エネオスは「計画を見直したい」と政府に申し入れた。 計画とは日量1バレルの実証プラントに続き、28年までに日量300バレル規模のe-fuelを生産するとしていた官民の開発目標だ。エネオスはこの計画の「無期延期」、つまり中止を申し入れた。 なぜなのか。それはe-fuelの開発コストにあるらしい。実証プラントで少量(約1バレル)なら生産できても、大量生産(約300バレル)に向けた投資となると、採算性を考慮せざるを得ないようだ。 エネオスは「木質チップの熱分解で得られる合成ガス(CO+H2)からも合成燃料を製造することが可能だ。早期の社会実装を図るため、より経済合理性の高いバイオマス原料を起点としたバイオ系合成燃料の製造を優先したい」と表明した。木質チップは森林の間伐材を使うという。 これは再エネの電力で水を電気分解して水素を取り出し、CO2と合成する従来型(再エネ系)のe-fuelと異なる。エネオスは「日量1バレル規模の実証プラントでe-fuelの製造に成功した成果は、バイオマスを原料とする将来の合成燃料製造のステップとして生かされる」などと理解を求めた。突然の中止表明に政府側には動揺が広がった。 1964年生まれ。上智大ドイツ文学科卒。毎日新聞経済部で財務、経済産業、国土交通など中央官庁や日銀、金融業界、財界などを幅広く取材。共著に「破綻 北海道が凍てついた日々」(毎日新聞社)、「日本の技術は世界一」(新潮文庫)など。財政・金融のほか、原発や再生可能エネルギーなど環境エネルギー政策がライフワーク。19年5月から経済プレミア編集部。

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