自工会「クルマが先頭に」宣言!! 進まない水素普及のため「鶏と卵」問題に本気の目標設定
専門家の視点
実体として、日本自動車工業会は大型水素トラック1500台、水素ステーション30基、水素価格1000円/kgという10年後の数値目標を掲げました。商用車の走行ルートが固定されているという物理制約を逆手に取り、平和島のモデルケースでは80台の集中利用でステーション黒字化の試算が出ています。水電解・液化水素・FCセルという三つの技術蓄積も実体として存在します。しかし物語は「ファーストペンギン」というフレームで日本の水素社会を切り拓くビジョンを強調しつつ、過去のFCV普及失敗から何を具体的に変えたのかが不明瞭です。執行レイヤーとしてタスクフォースは設置されましたが、ステーション運営事業者の採算性や水素の安定調達を誰がどう担保するのかという時間軸が欠けています。ここにあるのは「物語先走り」の構造です。ビジョンと目標は明確ですが、前回の悪循環を断つために必要な補助金の出口戦略や、需要創出と供給拡大の同時進行を実際に回す仕組みが示されておらず、実体が物語に追いついていません。
2026年5月21日、日本自動車工業会(JAMA)が都内で定例記者会見を開催した。今年度から本格始動させた「新7つの課題」の進捗を、会長・副会長が報告。「議論を繰り返すのではなく、実行に移す」という強い意志のもと、理事会でも全会一致で合意を確認したという。 今回の会見で重点報告されたテーマは、①マルチパスウェイの社会実装(幹線輸送での水素トラック普及)、②サプライチェーン全体での競争力向上(共同物流実装に向けた標準プラットフォーム構築)、③人材基盤の強化(自動車産業カレンダーの見直し)の3項目。 上記3項目に関してはいずれも「仕組みを動かす段階に入った」と佐藤恒治会長(トヨタ)が強調した。そのなかで今回の会見で最初に報告されたのが「①マルチパスウェイ」、なかでも「水素トラックの普及戦略」だ。「今後10年で大型水素トラック1500台・水素ステーション+30基・水素価格1000円/kg」という具体的な数値目標を掲げ、タスクフォースリーダーのトヨタを筆頭に、三菱ふそう・日野が連携し実務を担当。モビリティ産業が「ファーストペンギン」として日本の水素社会を切り拓くビジョンを示した。また、②共同物流では「2028年末をめどにOEM横断の物流協業を体系化する」という具体的ロードマップも提示された。本稿では今回の会見の核心を、水素戦略を中心に詳報する。 (※盛りだくさんなので「自動車カレンダー」と中東情勢に関しては別記事で紹介します) 文:ベストカー編集局長T、画像:日本自動車工業会 水素普及の取り組みは、あのトヨタといえど失敗と学習の連続だった。2014年にトヨタは世界初の量産燃料電池車「MIRAI」を投入して以降、トヨタだけでなくホンダも精力的に取り組んできたにもかかわらず、水素ステーションの数は伸び悩み、FCV(燃料電池車)普及も思うように進んでこなかった。 普及が進まない根本的な原因は「鶏と卵」の関係といえる。タスクフォースサブリーダーとして三菱ふそうトラック・バスから参加する安藤寛信氏はこう説明する。 「水素ステーションひとつを見たとき、まず来るクルマの台数が少ない、水素の消費量が少ない、となると、結果的に水素の値段が高くなる。水素が高いと利用者が増えない、利用者が増えないからステーションも増やせない──この悪循環を断ち切ることが最大の課題です」 カーボンニュートラル社会を実現するために、大型トラックの動力確保は優先課題のひとつ。そして大型トラックにはBEVは向いていない。BEVとは別の動力源がどうしても必要なのだ。そしてその有力候補が「水素」であることは間違いない。 だからこそ、この負の連鎖、悪循環を断ち切る方法を生み出す必要がある。この悪循環を打破するために、自工会が「まず我々が土台を整える」と名乗りをあげた、というのが本稿の趣旨。 乗用車と違い、商用トラックはビジネス使用のため走行ルートが比較的固定されている。特定エリアに集中投資してユーザーを増やし、ステーション事業の採算を確立する戦略が商用車では実現しやすいのだ。 実際、東京・平和島の水素ステーションでのモデルケース検証では、約80台の水素トラックが集中利用することで年間水素消費量が250tに達し、ステーションとして黒字化できるという試算が出ている(平和島ST予測値)。この「経済合理性が成り立つスモールサクセス」を各地で積み上げ、全国に拡大していくことが今回の戦略の根幹だ。 なぜ日本が水素社会の実現をリードできるのか。それは日本が世界に誇る3つの水素関連技術の蓄積があるからだ。タスクフォースリーダーの木全隆憲氏(トヨタ)はこの「日本の勝ち筋」を整理した。 まず「つくる」領域での①水電解技術。旭化成らが取り組む高効率な水素製造・安定稼働技術は、水素製造の世界市場獲得を視野に入れている。次に「はこぶ・ためる」領域での②液化水素関連技術。HySTRAやNEDO補助事業で実証が進む極低温での高効率運搬・貯蔵技術は、広範な輸入先からの水素調達を可能にし、エネルギー安全保障の観点からも重要だ。そして「つかう」領域での③FCセル・水素モビリティ。燃料電池車や水素エンジン車として世界に先駆けてマルチパスウェイを実行してきた実績は、市場で鍛えられた性能と耐久性という強みとなっている。 「この3つの技術を活かし、業界連携で水素需給を拡大し、産業競争力を強化していく」(木全氏)。米国・欧州・中国が国主導で水素産業基盤の強化と国際市場での覇権確立を急いでいるなか、「日本もまさに今、取り組みを加速させる必要がある」という強い危機感が今回の大胆な目標設定の背景にある。 今回の戦略の象徴的なプロジェクトが「水素大動脈構想」だ。福島から福岡に至る幹線輸送ルートを舞台に、水素トラックによる輸送網を官民連携で
本文は配信元の記事から取得した抜粋です。
配信元の記事を読む →