川崎重工、水素からナフサ生産を提案 脱中東依存の切り札となるか | NEWSjp
専門家の視点
川崎重工が提案する水素由来ナフサ生産技術は、実体としてFTS(フィッシャー・トロプシュ法)という既存技術の応用であり、エネルギー効率の低さとCO2の大量投入が必要という物理的な制約を抱えています。一方で、物語は「脱中東依存」という経済安全保障の文脈で強くフレーミングされており、日本政府の2030年目標や企業連携の実証実験が進むことで期待が先行しています。しかし、現状のコストは石油ナフサ比で数倍から10倍以上と高く、実用化への時間軸と経済合理性に大きなズレが生じています。ここにあるのは「物語先走り」の構造です。脱炭素と脱中東依存という二つの課題を同時に解決する切り札として語られる一方、技術そのものは実証段階であり、商業化には大量の再生可能エネルギーとCO2回収基盤が必要です。隠れた前提は「水素由来ナフサが中東依存を解消する」という一文ですが、水素製造にも天然ガスや電力という資源が必要であり、調達先を単純に切り替えただけでは真のエネルギー自立には至りません。次の観測点は、川崎重工が実証規模とコスト低減の具体的なマイルストーンを提示できるかどうかです。
●川崎重工が水素からナフサを生産する技術を提案 川崎重工業が5月12日の決算説明会で、水素からナフサを生産する技術の提案を始めたことを明らかにしたと、日経新聞などが報じている。 対象は明らかにしていないが、独自技術を生かして経済安全保障に貢献するという。 川崎重工は、天然ガス由来の水素などからガソリンを製造するプラントを、2019年にトルクメニスタンに納入した実績を持つ。日経の報道に寄れば、説明会で橋本康彦社長は、「水素を使ってガソリンやナフサを作れると知らない人がまだ多い」と語ったという。 ホルムズ海峡の実質的封鎖以降、原油の約95%を中東由来に頼る日本にとって、ナフサ不足が深刻化しており、水素からナフサ生産が救世主となるのだろうか? ●水素からナフサ生産 水素からナフサを生産する技術は、決して最新の技術ではない。 水素と一酸化炭素を触媒反応させ炭化水素を合成するFTS(Fischer-Tropsch)という技術は、第2次世界大戦中にナチスドイツが実用化し、その後南アフリカのSasolが数十年商業運転してきた。 ただ、石炭や天然ガスを一度水素と一酸化炭素に分解しないといけないため、大量の二酸化炭素(CO2)を必要とすることと、エネルギーロスが大きいことが課題となっている。 ●e-naphtha(イーナフサ)への期待 工場や大気中から回収したCO2(二酸化炭素)と再生可能エネルギーで作ったグリーン水素を掛け合わせた、環境負荷ゼロのe-naphtha(イーナフサ)への期待がかかる。 日本政府は2030年までにイーナフサなどの合成燃料の商業化技術の確立を目標に掲げており、ENEOSや出光興産、三菱ケミカルなどの大手企業が提携し、国内のコンビナード内でのCO2回収と水素合成を一貫して行う実証実験が始まっている。 ただ、現状石油ナフサに比べて1リットルあたり、数倍から10倍以上のコストがかかると言われており、大量の電力消費も問題となっている。 イーナフサ関連企業は川崎重工だけでなく、千代田化工建設や東洋エンジニアリングなどのCO2回収に強い企業も、国策銘柄として注目される。 後退しつつある脱炭素と、喫緊の課題である“脱中東依存”の経済安全保障面が一気に解決する切り札となる可能性を秘めている。
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