「人工的な原油」ホルムズ海峡封鎖で開発は進むのか? | 環境エネルギー最前線 | 川口雅浩
専門家の視点
この記事は、ホルムズ海峡封鎖という地政学リスクを背景に、e-fuelを「人工的な原油」として切り札のように語っています。しかし、実体として示されているのはENEOSの実証プラントでの1日159リットル生産と、万博バス約2万5000キロの走行実績のみです。技術的に合成可能で走行できることを証明した点は確かですが、記事は「解決すべき課題がある」と述べるだけで、コスト、エネルギー収支、大量生産の見通しなど本質的な障壁にはほとんど触れていません。 語り口としては、日本の中東依存からの脱却、再エネとe-fuelの普及で「脱石油が進むはずだ」という楽観的な未来像を描き、読者の期待をあおる構造になっています。しかし、現状の生産量は極めて小規模であり、規模と効果のギャップが大きいと言えます。また、バイオ燃料との比較では原料確保の問題を指摘する一方で、e-fuelの大幅なエネルギー損失や高コストという欠点は省略されており、比較基準の恣意性が感じられます。さらに、火力発電所などから回収したCO2を使う場合は排出ゼロにならないとしながら、将来の大気中直接回収を想定する部分は「時制の操作」とも受け取れます。 省略された利害関係者としては、最終的に高額な燃料コストを負担する消費者や、大量の再エネ電力をe-fuel生産に回すことの機会費用が挙げられます。日本企業やGX人材にとって、技術的可能性だけに踊らされず、ライフサイクル全体での現実的な実装シナリオを描くことが不可欠です。
米Infinium(インフィニウム)社が製造した合成燃料のe-fuel(イーフュエル)。石油代替の次世代燃料と期待される=同社提供 日本の中東依存が残した教訓(5) 原油輸送の要衝ホルムズ海峡の事実上の封鎖が続く中、将来的に電気自動車(EV)と再生可能エネルギーが普及すれば、日本でも脱石油が進むはずだ。しかし、エンジン車が残る限り、燃料が必要になる。そこで期待されるのが再エネで取り出した水素と二酸化炭素(CO2)を合成して作る「e-fuel(イーフュエル)」の実用化だ。石油代替の次世代燃料は本当に実現するのか。 2025年の大阪・関西万博で大手石油元売りのENEOS(エネオス)は「万博シャトルバス」に合成燃料(e-fuel)を提供。万博の期間中(184日間)、バスはJR大阪駅と会場を結び、約2万5000キロ走行した。e-fuelをバスなどの「営業車両」に用いるのは日本初だった。 エネオスは政府の「グリーンイノベーション基金」の支援を受け、e-fuelを製造する日本初の実証プラントを24年6月、横浜市内に完成させた。1日当たり、わずか1バレル(約159リットル)の生産だが、再エネの電力で水を電気分解して水素を取り出し、CO2は工場の排気のほか、空気中からも直接回収したという。 e-fuelは技術的に合成可能で、従来のガソリンや軽油のように自動車が走行できることを証明したが、もちろん実用化には「解決すべき課題」がある。 現在、自動車や航空機の次世代燃料として期待されるのは、バイオ燃料と合成燃料の二つだ。バイオ燃料は植物などから作る脱炭素燃料だが、原料となる植物を確保できないと大量生産できない。そこで水素とCO2を化学反応させて合成するe-fuelを量産できないか、国内外で研究開発が進んでいる。 e-fuelは「人工的な原油」とも言われる。エネオスの実証プラントのように、水素は再エネで水を電気分解して取り出す。CO2は当面、火力発電所や工場などから出たものを回収して用いるが、将来的には大気中から直接取り出すことを想定している。 火力発電所などから回収したCO2を水素と合成したe-fuelを燃やした場合、回収したCO2が大気に出るので「排出ゼロ」とはならない。しかし、大気中から回収したCO2なら「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)」とみなされる。 同様にバイオ燃料も理論上、原料となる植物が成長時にCO2を吸収するためカーボンニュートラルだ。農作物と競合しないミドリムシや… 1964年生まれ。上智大ドイツ文学科卒。毎日新聞経済部で財務、経済産業、国土交通など中央官庁や日銀、金融業界、財界などを幅広く取材。共著に「破綻 北海道が凍てついた日々」(毎日新聞社)、「日本の技術は世界一」(新潮文庫)など。財政・金融のほか、原発や再生可能エネルギーなど環境エネルギー政策がライフワーク。19年5月から経済プレミア編集部。
本文は配信元の記事から取得した抜粋です。
配信元の記事を読む →