EU ETS無償割当ベンチマーク改訂案を公表 産業界向け配分ルールを見直し
専門家の視点
この改訂案は、EUが産業保護と気候目標の板挟みになる構図を浮き彫りにしています。実体は無償割当の延長による最大40億ユーロの支援ですが、語られ方には注意が必要です。記事は炭素リーケージ防止という目的を強調しつつ、この措置が排出削減インセンティブを弱める副作用を省略しています。間接排出の考慮継続は、産業界には歓迎すべき「現実的な配慮」ですが、環境NGOから見れば市場メカニズムの形骸化と映るでしょう。ここには目的(排出削減)と手段(無償割当)の倒置が潜んでいます。また、ベンチマークを「最も効率的な上位10%」と定める比較基準の恣意性は、改訂ごとに支援対象を調整できる制度的な隙を生んでいます。強調されるのは産業競争力と中国・米国への対抗であり、市民社会や将来世代の利害が省略されがちです。この政策は、脱炭素目標の達成時期を実質的に先送りする可能性を内包していると言えます。日本企業にとっては、EUの無償割当延長が自社の欧州事業の短期的なコスト負担を緩和する一方、長期的な排出削減投資の判断を曖昧にするリスクがあることを認識すべきです。
5月12日、欧州委員会は、EU排出量取引制度(EU ETS)における2026〜2030年のベンチマーク値改訂案を公表した。今回の見直しは、産業界への無償排出枠(free allocation)配分を決定する重要な制度改訂であり、エネルギー多消費産業に対して約40億ユーロ相当の支援効果が見込まれている。 EU ETSでは、鉄鋼、セメント、化学、製紙などの産業部門に対し、炭素リーケージ(生産拠点の域外移転)防止を目的として、一定量の排出枠を無償で配分している。配分量は「最も効率的な上位10%の設備」の排出原単位を基準とするベンチマーク方式で決定される。 今回の改訂では、欧州委員会が制度上認められる柔軟性を最大限活用し、14の製品ベンチマークで電力由来の間接排出(indirect emissions)を引き続き考慮する方針を示した。これにより、一部産業では従来想定より多くの無償割当を受けられる可能性があり、2026〜2030年累計で約40億ユーロ相当の追加的な便益につながるとしている。 欧州産業界では近年、高止まりするエネルギー価格や、中国・米国との競争激化を背景に、EU ETSによるコスト負担増への懸念が強まっていた。特に、CBAM(炭素国境調整メカニズム)では、2034年までに無償割当を段階的に廃止する方向であり、産業競争力維持との両立が政策課題となっている。 改訂案は今後4週間のパブリックコンサルテーションと加盟国協議を経て、2026年6月末までに正式採択される予定。さらに欧州委員会は2026年7月にEU ETS制度全体の包括見直しも予定しており、セクター別の補完的ベンチマーク導入(fallback benchmark)など追加的な産業保護措置も検討されている。 原文:Commission presents updated EU Emissions Trading System benchmarks for consultation ESG Journalでは、実務に役立つポイントや実践ガイド(テンプレート)を紹介しています!国内外においてカーボンクレジットの利用やカーボン市場の制度整備が進みつつあります。ぜひこの機会に自社の実務対応を再確認してください。🌍開示基準、保証など制度への対応に関連する実務ガイドはこちら>>> ✅カーボンクレジット市場について解説✅ICVCMのフレームワークを整理 ✅対象事業者と義務の構造など全体図を解説✅CBAM簡素化規則と日本企業への影響をチェック項目で整理 ✅GX-ETSに必要な対応を網羅的に整理✅対応ポイントの解説
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