企業動向

「ブルー・ネイチャーボンド」を企業価値に | 日経ESG

2026-05-10
ニッスイが海洋生物多様性保全や脱炭素、持続可能なサプライチェーン構築を企業価値向上の重要課題と位置付け、2025年4月から関連施策を開始する方針を示した記事

専門家の視点

発行額100億円、利率1.908%という数字と、国内初のブルー・ネイチャーボンドという看板の間には、構造的なズレが潜んでいます。物語は壮大ですが、実体は初の社債発行という手探りの一歩です。完全養殖やASC認証は確かな実績ですが、これらは事業の継続的な改善を示すものであり、債券の償還能力を直接保証するものではありません。投資家が注目すべきは、自然資本への配慮という物語ではなく、養殖事業の収益率が本当に債券の利率1.908%を継続的に上回るかという、極めて古典的な事業リスクの検証です。ここで隠れた前提を問い直します。自然への影響を減らすことと収益率向上が、常に両立するという前提です。完全養殖は設備投資と技術力が必要で、短期的な収益性を圧迫する可能性があります。つまり、この債券の成否は、環境配慮と収益性の両立という難しい経営課題の実行力にかかっているのです。次の観測点は、2026年3月発行から5年後の償還までの間に、チリのサーモンと宮崎・鹿児島のブリが計画通りの収益を上げられるかです。物語先走りの構造であり、実体が追いつくかどうかは、今後の事業報告書の数字でしか証明されません。

ニッスイは海洋環境と自然に配慮する事業に資金を充てる債券を発行した。持続可能な養殖業の展開で自然への影響を減らし、収益率向上を目指す。 ニッスイは2026年3月、海洋環境と生物多様性・自然の保全に貢献する事業に資金を充てる債券「ブルー・ネイチャーボンド」を発行した。発行額は100億円で償還期間は5年、利率は1.908%。ブルー(海洋)とネイチャー(自然)の両方をテーマにする債券は国内で初めてだ。 宮崎県と鹿児島県で展開するブリの養殖事業とチリのサーモン養殖事業に資金を充てる。いずれも成魚から卵を採取して人工ふ化させ、成長した魚からまた卵を取る「完全養殖」の方式で天然資源への影響を抑えている。チリのサーモンは環境や社会に配慮した養殖業を証明する「水産養殖管理協議会(ASC)」認証も取得している。この債券は、格付投資情報センター(R&I)から、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則、ネイチャーボンド実務者ガイド、ブルーボンド実務者ガイドとの適合性の承認を得た。 そもそもニッスイにとって債券の発行は初めてだ。いきなりブルー・ネイチャーボンドの発行に踏み切ったのは、「環境に配慮した養殖を成長事業と位置付けて投資家に打ち出すためだ」と同社財務課課長補佐の園田和樹氏は説明する。 水産業は自然に影響されるため価格変動が大きく、利益が出るか損をするかが読みにくく投資家が投資しにくかった。ニッスイの資金調達も銀行からの借り入れが中心だった。だが、同社は自然に関するリスクを最小にする対策を講じるとともに、自然に影響を受けにくい持続可能な養殖業を経営の中心に据えて利益を拡大する方向にかじを切った。 資金調達も多様化することにした。自然資本に配慮する姿勢を伝え新たな投資を呼び込むために発行したのが今回の債券だ。太陽生命やゆうちょ銀行など10社以上が投資し、新たな投資家の獲得に成功した。 ニッスイは海洋の生物多様性保全や脱炭素、持続可能なサプライチェーン構築など10項目を企業価値向上にとって重要な課題と位置付けている。25年4月に始まった中期経営計画ではサステナビリティ経営を深めるとともに、養殖事業を重要な成長分野として事業を拡大する。 2026年6月号循環経済、脱炭素、人的資本、IR、コンプライアンス AIが起こすESG革命 日経ESG新刊書籍「経営者が語る 成長の源泉 ESG経営」 Copyright © Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.

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