今治造船が過去20年で「圧倒的成長」を遂げ業界の盟主になった必然的理由、一方でJMUとの ...
専門家の視点
決算公告が示す両社の差は、造船という「受注生産型産業」の常識を今治造船が転換した点に尽きます。JMUが大型・特殊船のオーダーメードで差別化を図る従来型ビジネスモデルを維持する一方、今治造船は船型の標準化と「既製品」販売による工期・コスト管理の徹底、さらに自社保有の海運会社を市況調整弁として機能させる垂直統合構造を構築しました。これは造船所が市況変動のリスクを吸収する装置を自前で持つという、産業構造そのものの変革です。物語先走りでも期待先行でもなく、財務数値という実体が経営力の格差を明確に翻訳している点が今回の構造です。ただし、統合シナジーの本丸は今後の建造能力の相互補完にあります。JMUが持つ液化天然ガス運搬船や大型客船の技術と、今治造船の標準化による量産効率が本当に噛み合うのかは、まだ実証されていません。両社の統合は、技術の「すり合わせ」と「標準化」という異なる二つの価値観を同一プロセスに収める試みであり、日本の造船業が成長を取り戻すか否かの観測点は、この矛盾をどう扱うかにかかっています。次の見るべき所は、両社の建造設備の稼働計画と人材交流の具体化です。
今治造船とジャパン マリンユナイテッド(JMU)の決算公告から近年の業績をひもとくと、今治造船が日本の造船業の盟主となるのは必然で、逆に、JMUは今治造船の傘下に入らなければ立ち行かないところまで追い込まれていたことが浮き彫りになった。特集『なるか造船復活 嵐の出航』の#8では、業績データと関係者の証言から両社の実力と統合シナジーを独自に分析する。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎) 専業メーカーの今治造船が総合重工系のジャパン マリンユナイテッド(JMU)を傘下に収めた“下克上”は、「野武士が貴族をのみ込んだ」とも評された。業界には驚きも広がったが、決算公告を分析すると、両社の経営力には大きな格差があることは明白で、今回の資本提携は必然だったことが分かる。明暗を分けたのはビジネスモデルの差だ。 2005年に今治造船の社長に就任した檜垣幸人氏は、この20年で剛腕ぶりを示してきた。在任中に売上高は2倍の4647億円、総資産は3倍の1兆1606億円、利益剰余金は4倍の4215億円に拡大した。元々は中小型バルクキャリアー(ばら積み船)が中心だった同社は、ゴライアスクレーンの拡充や企業買収を進め、大型タンカー、メガコンテナ船、液化天然ガス(LNG)運搬船まで幅広く手掛けるようになった。 檜垣氏は子会社の海運会社、正栄汽船の社長も兼任する。海運市況が悪いときは子会社に発注させて造船所の稼働を維持し、市況が上向いたタイミングで転売する手法で収益を確保してきた。海事産業に長く携わる商社幹部は「造船と海運、二つの経営を20年続ける人物は世界でも他にいない。檜垣氏の売買の差配は、知る限りで一度も誤ったことがない」と舌を巻く。檜垣氏に集まる海事市場の情報量は膨大で、世界中の船主が「生の情報」を得るため、愛媛県今治市に足を運んで面会しているほどだ。 建造の効率化にも踏み込んでいる。一部の船種では外部監督(船の発注者の代理人が造船所において、仕様書や計画通りに建造されているか監視すること)を受け入れず、「既製品」として販売し、工期遅延や追加コストの発生を抑えている。オーダーメードではなく標準化することで収益性を高めているのだ。 次ページでは、JMUのビジネスモデルを示した上で、今治造船との財務体質の違いをグラフで示す。さらに、両社が統合シナジーを発揮する上で立ちはだかる壁についても明らかにする。
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