再エネ・技術

アレクサンドロス・カラミツォス/マースクゼロカーボンシッピング研究所船隊脱炭素移行責任者

2026-05-08
世界初のアンモニア燃料タグボートや日本初の水素燃料タグボートの登場など、船舶分野での脱炭素技術の実用化事例が紹介されている

専門家の視点

世界初のアンモニア燃料タグボート、日本初の水素燃料タグボート、水素運搬船の契約という三つの事実が並ぶとき、実体は確実に港の脱炭素を動かしています。しかし、この技術群の中心にあるのは「船」そのものではなく、燃料供給網と安全基準という社会インフラです。タグボートは舶用エンジンから転換済みですが、燃料の製造・貯蔵・供給の連鎖が同時に整わなければ、隻数は増えても稼働率は上がりません。ここで隠れた前提を問い直します。水素とアンモニアは「ゼロカーボン燃料」と一括りにされますが、ライフサイクル排出量は製造方法で桁違いに変わるのです。グレー水素で走る船は、単なる排出源の移転に過ぎません。この構造は、物語先走りではありません。実績は確かにあるが、社会システムとしての翻訳が遅れている段階です。次の観測点は、燃料供給拠点の整備計画と、国際海事機関のライフサイクル基準の動向です。時間軸で言えば、タグボートの実証は2年後、燃料調達の制度化は5年後と明確にズレています。結論として、この技術群は港のゼロカーボン化への入口であり、その先の燃料サプライチェーンと環境価値の定義づけが、この移行の成否を決める構造です。

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