「責任ある鉱物調達」は実現できるか、脱炭素も人権保護も - オルタナ
専門家の視点
移行鉱物の需要予測をめぐり、IEAの現状追認型シナリオとグリーンピースの需要抑制型シナリオが大きく乖離している点が、この論考の核心です。両者は「必要量の確保」と「掘削量の削減」という異なる解き方をするため、数値の差はそのまま政策の方向性の差を映します。ここに「実体が翻訳されていない」構造があります。リサイクルや電池技術の進展は実績がある一方、車の保有台数抑制という需要側の対策は、インフラ整備やライフスタイル変容という時間のかかる要素に依存しており、実行レイヤーが曖昧です。とりわけ日本では、公共交通の拡充と自動車産業の維持という両立しにくい二つの事実があり、この矛盾を議論せずに理想的なロードマップだけを掲げても、物語は実体に追いつきません。次の観測点は、2026年に公表されるグリーンピース報告書の前提条件です。そこに自動車台数削減の実現手段が具体的に示されるか否かで、この議論が政策提言として機能するかが決まります。脱炭素と人権保護の両立は、技術革新だけでなく社会構造の転換を伴うため、時間軸を共有した政府と企業のコミットメントなしには達成できない構造です。
社会全体で脱炭素を推し進めるには「責任ある鉱物調達」が欠かせない。だが、環境と人権を守りながら、脱炭素も実現するには、政府、企業、市民社会が一体となって取り組むことが重要だ。持続可能な鉱物調達を目指すためのロードマップを提案する。(国際環境NGOグリーンピース・ジャパン・気候変動・エネルギー担当=塩畑真里子) 温室効果ガス排出削減のために、内燃機関からクリーンエネルギーへの転換が世界各地で急速に進んでいる。この歴史的な転換にあたって必要になるのがいわゆる「移行鉱物」だ。具体的には、リチウム、コバルト、ニッケル、銅、マンガンのほかレアアースが含まれる。 日本ではこれらの鉱物資源をめぐって、特定国への極端な依存を避けるべきだという経済的安全保障の観点からの議論と、移行鉱物はその採掘過程で深刻な問題を引き起こしているという環境・人権的観点からの議論がある。 鉱物資源掘削による水や土壌の汚染など環境への影響は、本来、気温上昇を食い止めるはずの脱炭素の推進が新たな問題を引き起こしてしまっているのではないかという懸念である。 環境と人権を守りつつ、脱炭素を実現していくことは果たして可能なのだろうか。これは気候変動や環境に関心がある人であれば当然疑問に感じることであろう。 この記事では、脱炭素と環境・人権保護の両立のための道筋はある、ということを提示したい。 ■リチウム需要量、2040年に4倍以上に拡大へ そもそも脱炭素と環境・人権の保護は相互排他的であるべきではない。そのためには、いかにして鉱物資源の掘削を減らしていくかという観点と、それでも必要な量だけの鉱物を確保するにあたって、いかに環境保全と人権保護を担保するかという観点が重要になる。 実現のためには、一刻も早く、政府、企業、市民が一丸となって持続的な脱炭素に真剣に取り組む必要がある。 世界で今後必要とされる移行鉱物の量については、国際エネルギー機関(IEA)を中心に、複数の専門機関が予測値を定期的に出している。 予測にあたっては、経済成長率、人口増加率に加え、電力供給に占める再生可能エネルギーの割合など脱炭素の進展度、電気自動車(EV)の販売率、バッテリー製造に使われる材料の構成のほか、バッテリー材料のリサイクル率を考慮する必要がある。 現在、IEAのSTEPS(各国で実施されている政策や公表されている目標に基づくエネルギー・システムの予測シナリオ)では、リチウムの需要量は、2024年に205キロトン(kt)であったのが2040年には約4.5倍の928ktに達すると予測されている。 一方、グリーンピースが2026年の3月に公表した報告書では、バッテリーなどのリサイクル率を着実に高め、とりわけ自動車の台数を抑制することによって、2040年のリチウム需要量を半分以下の421ktまで抑えることが可能であることを示している。 現在、バッテリー技術は急速に進歩している。EVでは、従来主流であったニッケル、マンガン、コバルトが主成分の三元系電池からLFP電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)へ移行しつつあり、LFP電池以外にもナトリウム電池など新たな技術開発が進み、それによって必要とされる鉱物の種類も量も増減する。 LFP電池は、正極に鉄とリン酸を使用するリチウムイオン電池であるが、コバルトやニッケルを使用しない。将来的にこのLFP電池がどのようなスピードで普及していくかが問われる。 さらに、グリーンピースの予測では、電池材料のリサイクルに加え、乗用車保有台数を抑えることが鉱物の需要そのものを減らすことにより大きな影響を与えるとしている。 そのためには、いかにして公共交通サービスを拡充するか、車を所有することから共有すること(シェアリング)に転換していくかが鍵になる。 このような予測を出したのは、決してグリーンピースが初めてなのではない。 2023年にカリフォルニアのクライメート・コミュニティ・プロジェクトがカリフォルニア州立大学と共同で実施した調査もそうだ。2050年までの米国国内の旅客輸送におけるリチウム需要量を予測したものだ。 シナリオはいくつか設定されたが、このうち最も野心的なシナリオ下では、公共交通の充実や都市の過密化(デンシフィケーション)を通じて車への依存度を下げることで、リチウム需要を最大66%削減することが可能、また、自動車とバッテリーの小型化を図ることで同需要を42%削減できるとしている。 リサイクルも重要であるが、車の保有台数の減少、という根本的な需要削減の方が効果は高い、としている。 現在のライフスタイルをまったく変えずに鉱物需要を減らすということは非常に困難である。車の個人保有を減らし、シェアリングに移行していくためにはまだまだインフラの拡充が必要であるが、例えば20年前
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